日清紡グループの財務戦略

塚谷 修示
取締役執行役員
経営戦略センター 財経・情報室長
塚谷 修示

事業の収益性向上を通じて投資効率の改善を図る

財務戦略の基本方針

日清紡グループでは、中長期的な投資とリスクに備え、財務健全性を維持しながら資本生産性を重視した経営を推進しています。2025年のROE(自己資本当期純利益率)12%の目標達成に向け、ROIC(投下資本利益率)を重要な社内管理指標として導入しながら、自律的な企業成長を図っています。

グループ全体の運転資金や成長投資等の必要資金については、主として営業キャッシュ・フローを財源としていますが、必要に応じて有利子負債を効果的に活用し資本効率の向上を図っています。またグループガバナンスの強化と資金効率の向上を目的に、グループ一体での資金調達と資金管理を実施することで、グループ内の流動性確保とWACC(加重平均資本コスト)の低減に努めています。

ROICに関しては、WACCを6%と置き、2025年のROE目標が12%であることから、最適なROIC 水準は8% 程度と試算しています。多様な事業を擁する当社グループでは、事業ごとに適正なROIC 水準を見出し、その水準に届いていない事業は価格転嫁やコストダウン等で利益確保に努めています。ROICの評価以前に、事業の見極めと見切りを進めているところであり、その方針に沿って南部化成(株)の海外拠点の集約なども実施しました。また収益の底上げ策として、カイゼン活動や原価管理活動、さらに事業単位や個別製品単位といったあらゆる階層での見極めと見切りを進めており、近い将来にはROIC 軸を本格導入することで、精緻な業績評価に移行したいと考えています。

キーポイントはアセットライトな事業の育成です。半導体事業やブレーキ摩擦材事業は、どうしても初期投資が重く資産効率が低下しがちです。ゆえに参入障壁となり事業の安定性には寄与しますが、ROICの面では不利になりがちです。一方で、無線・通信事業が手がけるソリューション事業やマリンシステム事業は、組立産業に属しますので初期投資が低減されます。あわせて「モノ」を売り切るビジネスから、モノづくりで究めた技術や製品を活用して、DXやIoTと融合させながらサービス事業を展開する方向へ舵を切っていくことで、アセットライトな事業となります。これにより、バランスシートの肥大化を防ぎ、資産効率を高めていきたいと考えます。資産効率の上昇は、自ずと調達側にある株主資本のスリム化に波及します。収益性を高めつつ、株主資本のスリム化によってもROE目標の達成を目指したいと考えます。

過去10年間の財務成果について

オーガニック・グロースおよび数々のM&A、事業譲渡による事業ポートフォリオ改革で、当社グループの事業内容は大きく変容を遂げています。無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキの主要3セグメントでは、積極的にM&Aを実施してきました。また環境負荷の高さや当社グループ内における成長性なども考慮し、紙製品事業は譲渡しています。こうした取り組みにより、特に無線・通信事業の中核会社である日本無線(株)はアセットライトな側面があることから、バランスシートの観点では資産効率の改善につながっています。またフローの観点でも、現在の日清紡マイクロデバイス(株)につながる半導体子会社を買収し、マイクロデバイス事業を成長事業として取り込んでいます。

この間、構造改革を支える安全性指標については、過去10年間、EBITDA/有利子負債倍率を注視しながら安全性に配慮してきました。コロナ禍からの回復をみた2021年決算において、各事業の収益基盤の確認ができたこともあり、純利益に減価償却費を足し込んだCFと負債との比率は2.7倍程度まで低下しています。4倍程度までは負債依存を高められるはずです。大胆な事業ポートフォリオ改革にあたってM&A を手がける際には、レバレッジの利かせ方を考えていきます。

気候変動への取組み

当社グループの掲げる企業理念は、「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」です。そして、気候変動は地球と人びとにとって大きな脅威の一つです。気候変動による事業機会の取り込みおよびリスクへの適切な対応は重要な経営課題になっています。その一環として、2021年度より、当社グループではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に準じた気候変動シナリオ分析を開始し、2022年6月にTCFDへの賛同を表明しました。シナリオ分析によって、気候変動という現実をビジネスに組み込む機会を得たことに意義があります。

当社グループは、「モビリティ」「インフラストラクチャー&セーフティー」「ライフ&ヘルスケア」の3つの分野を戦略的事業領域と定めて活動していますが、その各々に気候変動に対する取り組みを定義できます。製造業として製造工程に関わる温室効果ガスの排出削減に努めなければなりませんし、その生み出す製品が温室効果ガス排出削減に役立つ社会要求に応えねばなりません。あるいは、地球温暖化が引き起こす気候変動による災害の激甚化から人々の安全や財産を守るシステム技術を世に送り出す責務があります。各々にビジネスリスクとオポチュニティがあると確信しています。

CFOはリソースの番人といわれることがありますが、気候変動の取り組みに関して、リソース配分に積極的に関与する必要があると認識しています。すなわち、温室効果ガス排出抑制に寄与する環境投資や研究開発の推進です。環境投資、再生エネルギーの活用、そして研究開発活動は、短期的な財務業績上はコスト上昇要因となるでしょう。これを環境投資の優遇措置やインターナル・カーボンプライシングといった工夫で乗り越えなければならないと考えています。そして、気候変動によってもたらされる社会課題の解決に有益な製品やサービスの提供を通じて投資回収を行いたいと考えています。

資金調達の観点では、当社グループが取り組んでいる環境貢献の活動をわかりやすく整理し訴求することで、グリーンボンド等のサステナブル・ファイナンスに道をつけたいと考えています。

成長を支える財務戦略

日清紡グループでは、戦略的事業領域を明確に定めており、無線・通信事業やマイクロデバイス事業を中心に資金を投下していきます。現状のNOPAT と償却費から、重点投資領域を中心に、設備投資やR&D投資には少なくとも年間400億円程度の予算を振り向けています。また、成長戦略を加速させる上でのM&Aも積極的に活用していきたいと考えますので、これは単年度で予算を超過した場合でも借入金等も活用しながら検討していくテーマです。

設備投資、M&A投資等の長期的な資金に関しては、金融市場動向や長短バランスなどを総合的に勘案し、適宜長期資金の取り込みを行ってきました。中長期的には、資金調達構造の見直しを図り、成長に資する判断がある場合には財務をフレキシブルに考え、最低限の安全性を確保した上で検討していきます。

株主還元に関する基本方針

日清紡グループは、ROE重視の経営を推進し、利益配分を含めた株主価値の持続的な向上を目指しています。研究開発、設備増強、M&Aなどの成長投資を加速させ、「環境・エネルギーカンパニー」グループとして、社会・ステークホルダーの皆様から一層評価され信頼いただける企業を目指してまいります。

配当については、中間配当及び期末配当の年2回配当を基本とし、連結配当性向30% 程度を目安に、安定的かつ継続的な配当を行う方針です。

さらに、今後の成長戦略遂行に要する内部留保を十分確保できた場合には、安定性にも配慮した上で、自社株買い入れ等も含めてより積極的に株主への利益還元を行う方針です。自己株式については、消却を原則としますが、大きな株主価値の向上に資するM&A案件が存在する場合は株式交換等に活用することもあります。

こうした方針に基づき、2022年12月期の配当金については、1株当たり年間配当額を4円増配し、1株当たり34円(中間配当金17円、期末配当金17円)を予定しています。また5月には、取得株式数と総額の上限をそれぞれ1,200万株、100億円とする自己株式取得について発表しました。今期の営業CF は約500億円を見込んでおり、成長投資資金を確保した上で、連結CFの範囲内で自己株式取得を行っております。