日清紡グループの財務戦略

成長戦略を練り実行することが経営者の役割ですが、そのプロセスにおいては建設的な歯止めが必要なこともあります。積極投資と規律の両輪が相まってこそ、健全な成長が可能になると考えています。

塚谷 修示
取締役執行役員
経営戦略センター
財経・情報室長

課題認識

喫緊の課題は、事業採算の改善です。
 特にコアビジネスである「無線・通信」「マイクロデバイス」「ブレーキ」の改善は急務です。各々のビジネスにおいて、市況に大きく左右される商品群を抱えていますが、トップラインが低下しても一定の利益を確保できるように限界利益率を高める必要があります。コスト削減はメーカーとして永遠の課題であって、今後も手綱を緩めることはありません。

コーポレート部門としてのサポートは、KPI(管理指標)の見直しです。従前よりROEを全社目標に掲げて業績管理を行ってきましたが、売上高、営業利益(率)、資産性指標(ROA)だけでは、資本市場と対話する上でも不十分であると認識しています。より現場に根差したKPIが必要であり、投資採算の改善に直結するROICの導入を検討しています。

ROICをKPIとして導入することで、投資に関する損益実績を明確化することができます。事業特性が異なる複数セグメントを管理する上で、投資という観点で一律管理ができることは大きな変化です。投資のPDCAサイクルを改善し、事業計画の精度を上げ、投資効率の悪い事業の早期対策を講じることなどに効果が出てくることを期待しています。

事業採算の改善を図る上で、短期的なマイルストーンは営業利益250億円への到達と考えています。実効税率を30%として税引後利益は175億円、配当を50億円強(配当性向30%)と見込めば、合格点には及びませんがROEは6%台となります。2-3年のうちに到達し、2025年のROE目標としている12%への通過点としたいと考えています。

成長戦略

成長戦略を吟味する上で、WACCというベンチマークは常に意識をしています。当社は現状、WACCを6%前後と想定しています。上記のROICについても6%をクリアできるかどうかが基準になると考えています。

とはいえ、事業ごとの成長ステージは意識する必要があります。一口に「成長戦略」と言っても、事業の置かれたステージによって適用する投資のハードルレートは変わります。成熟事業にはオーガニックな成長を期待する余地がありますし、M&Aや新規事業にはノン・オーガニックな高い成長を期待することになります。当然ながら、衰退事業については事業継続の見極めを迫ることになります。

事業ポートフォリオの見直しの中では、M&A戦略が大きな意味を持ちますが、対象となるのは、理念の源流にある「企業公器」の考え方と「環境・エネルギーカンパニー」グループという戦略軸から逸脱しないことです。現状ではM&A自体を目的化させないためにあえて専属部隊は置いていません。必要に応じプロジェクトチームを組成し、対応しています。成長戦略に欠かせないピースの探索については、ビジネス側にアンテナをあげさせて機会を逃さないようにしています。

アセットのスリム化

ROE向上を語る上で避けられないのは、アセットのスリム化です。低収益資産の流動化を進め、再投資に向けた資金を創る必要があります。事業ポートフォリオの見直し、グローバル化の過程で生まれた遊休地活用は不動産事業として進めてきました。コーポレートガバナンス・コードへのコミットにより株式保有の整理も進めています。これらのアセットの整理は最終コーナーに入りつつありますが、まだ2-3年は資金創出に寄与するものと考えています。この間に事業構造の変革にチャレンジする必要があると考えています。

財務の健全性を保つ上で、デットの活用には慎重にならざるを得ません。ここぞという場面でレバレッジを効かせることにためらいはありませんが、収益レベルとの兼ね合いは重要と考えています。負債は現状約1,700億円で、税引後営業利益に減価償却費を加えたEBITDAがおよそ330億円、EBITDA負債倍率は5倍程度と高くも低くもありません。しかし、これは積極投資の継続で減価償却費が膨らんでいることが影響しています。減価償却費を除き、税引後営業利益と負債とのバランス、すなわちEBIT負債倍率をみると20倍程度に跳ね上がります。これは投資が成果に結び付いていないためであり、成果が表われてくるであろうここ2-3年が勝負となると自戒しています。その間、アセットをスリム化しつつ、投資とデットのバランスを慎重に定めたいと考えています。

政策保有株式の推移