TNFD対応の概要
日清紡グループでは、自然関連課題による事業機会の取り込みおよびリスクへの適切な対応を行うことが重要と考え、2024年度より、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言に準じたリスク評価を実施しています。
自然関連課題の分析評価は、今後計画的に分析対象範囲の拡大、シナリオ分析等を実施し、分析の高度化を図ることを予定しています。また、今般の分析で特定された自然関連リスクについての対応策の検討、追加的な目標、管理指標の設定を検討する予定です。
当社グループでは、TNFDに基づくリスク評価を通して、自然関連課題が将来、当社グループに及ぼすリスクや機会を特定し、事業戦略の策定に活かすことで、より柔軟で堅牢な戦略を立案し、将来のリスクに対するレジリエンスを高めていきます。
TNFD開示項目
ガバナンス
日清紡グループでは、下図の通り、自然に関するリスク・機会に適切に対応するための仕組みを整備し運営しています。「リスク」を持続的成長のための「機会」とするべく、さまざまな事業環境の変化を定常的に把握・分析し、グループ企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」から導かれた事業方針のもと、社会課題へソリューションを提供して貢献することで、新たな成長機会を創出しています。また、自然関連課題の責任は社長、執行役員で構成される経営戦略会議などの会議体が負い、自然関連課題への対応について議論するとともに、目標とその進捗状況を監督しています。その内容は適時取締役会に報告されています。
ガバナンス体制図

リスクと影響の管理
日清紡グループは、重要な自然関連課題の依存・影響、およびリスクを特定するため、2024年度より無線・通信事業、ブレーキ事業、化学品事業、マイクロデバイス事業、精密機器事業、繊維事業の6事業を対象として、以下のステップで分析を行いました。
自然関連リスクの評価における第1ステップとして、分析対象とした事業による自然に対する依存と影響を、自然リスク評価ツールENCORE※ により評価しました。次に分析対象とする原材料を選定した上で、事業に関連するバリューチェーン全体のリスク調査および評価を行いました。これらの評価結果を踏まえ、当社グループにおける自然関連リスクの重要課題を特定しました。特定した重要課題に対しては、当社グループの製造拠点の周辺および、バリューチェーンの上流における潜在的なリスクの懸念のある地域を分析しました。潜在的なリスクの懸念のある地域の分析に関する詳細は、「戦略」をご確認ください。
※ ENCORE:国際金融業界団体NCFAや国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCSC)が、自然関連リスクに関する様々な既存ツールの結果を一括で評価できるよう開発したツール。

リスクマネジメント体制
日清紡グループは、事業遂行上の経営リスクに対し適切に対応し、経営リスク発生時の損失を最小化するために、リスクマネジメント体制を構築し、運営しています。当社グループが留意すべき自然に関するリスク・機会については、「リスクマネジメント規定」に基づいて、一義的には各事業においてリスクの把握・分析と評価を実施しています。各事業の責任者が、リスクの優先順位を決め、事業へのインパクトの大きさと将来のシナリオを想定します。その情報を経営戦略センターで総合・マッピングし、経営戦略会議や取締役会で審議しています。

※ HD:日清紡ホールディングス(株)
リスクと機会は発生確率および影響度を軸に5段階で評価を行い、その積が一定以上となる項目を重要リスクとして識別しています。

当社グループでは、リスクが与えうる経済的な影響などを加味し、それぞれのリスクを回避・軽減・移転・保有の4種のいずれかに分類して対応を図っています。
リスク分析ステップ

当社グループが当社連結業績に重要な影響を与える可能性があると認識しているリスクと機会の内容およびその対応については、「リスクマネジメント」ページに掲載していますのでご覧ください。
戦略
概要
日清紡グループは事業が多岐にわたるため、自社の事業規模等を考慮し、2024年度は対象事業のバリューチェーンにおける重要な自然関連の依存、影響、リスク、機会等を分析しました。分析にあたっては国連環境計画が提供している自然リスク評価ツールなども使用しております。
なお、TNFDのフレームワークでは、先住民や地域コミュニティが自然環境の重要な権利者であると位置づけられており、自然そのものに加え、権利者の人権への配慮も重要とされています。
日清紡グループでは、2023年8月に「日清紡グループ人権方針」を策定しました。当社グループは、企業として人権を守る責任の重さを真摯に受け止め、本方針のもと、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」等の国際的な基準に則り人権デューデリジェンスを通じた人権尊重の取組みを推進します。まずは各社の体制整備を進めながら、適切な人権リスク評価と是正対応実行への取り組みを行っています。
1. 自然資本への依存と影響の把握
TNFDの分類を参照し、事業別に上流・下流を含むバリューチェーン上における潜在的な依存と影響の内容について、分析を実施しました。分析にあたっては自然リスク評価ツールENCOREを使用しました。
事業と自然関連テーマのヒートマップ(依存)

事業と自然関連テーマのヒートマップ(影響)

2. 自然関連課題が事業に影響しうるリスク
TNFDにおける自然関連リスク分類を参照し、日清紡グループの事業に影響を及ぼしうる自然関連のリスクと機会を検討しました。検討にあたってはバリューチェーン上の上流、直接操業、下流それぞれにおいて、どのようなリスク、機会があるかを調査しました。
なお、今回の分析においては、初期的な分析として、リスクの分析に焦点を当てて実施しています。今後は、今回特定されたリスクをベースにシナリオ分析などを実施し、当社グループにとってのリスクをより詳細に分析していくとともに、機会についても検討を進めていきます。
リスク一覧
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リスク タイプ |
評価項目 | リスク | バリューチェーン | |
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大分類 | 小分類 | |||
移行 リスク |
政策/規制 |
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上流 |
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直接操業 | ||
評判 |
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上流 | |
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上流 | ||
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直接操業 | ||
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下流 | ||
訴訟 |
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上流 | |
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直接操業 | ||
物理 リスク |
急性 |
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直接操業 |
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直接操業 |
3. 自然関連の重要課題
依存と影響、リスクと機会に関する調査・分析結果を踏まえて、外部ステークホルダーの関心を表す「自然リスク評価ツールENCOREを用いた依存と影響の評価結果」を縦軸に反映し、リスクが事業に与える影響度の評価結果を「事業との関係性」として横軸に反映して、2軸でマテリアリティマップを整理しました。マテリアリティマップから、「水・土壌・大気汚染」、 「生態系の改変」 、「水の利用」の3つを日清紡グループにおける自然関連の重要課題として特定しました。
「水・土壌・大気汚染」、 「生態系の改変」については特に分析対象の事業で使用される原材料の調達において、依存、影響、リスクの面で強い関連性があると特定しています。また、 「水の利用」についてはマイクロデバイス事業の半導体製造や繊維事業の綿花調達において強い関連性があると特定しています。
自然関連マテリアリティマップ - 各事業との関連性
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4. 潜在的なリスクの懸念のある地域の分析
日清紡グループの直接操業、バリューチェーン上流における企業活動が、特定された重要課題に関してセンシティブな場所に位置しているかを評価しました。直接操業については日清紡グループの国内外68拠点について、バリューチェーン上流は主要な鉱物資源および綿花について分析し、潜在的なリスクの懸念のある地域を特定しました。
各バリューチェーンの関連する重要課題や原材料に応じて、評価拠点や使用ツールを選択し地域ごとの潜在的なリスクの懸念の有無を識別しています。
バリューチェーン | 関連する重要課題 | 関連する原材料 | 地域性分析の手法 |
---|---|---|---|
上流 | 水・土壌・大気汚染※ | 主要な鉱物 |
|
上流 | 水・土壌・大気汚染※ | 農作物(綿花) |
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上流 | 生態系の改変 | 主要な鉱物 |
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上流 | 生態系の改変 | 農作物(綿花) |
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上流 | 水の利用 | 農作物(綿花) |
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直接操業 | 水・土壌・大気汚染※ | すべて |
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直接操業 | 水の利用 | すべて |
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※ 製造業における直接操業(工場・研究所等)、バリューチェーン上流の鉱物資源の採掘、農作物の栽培の汚染関連の影響では特に水質汚染が問題となるため、優先地域の分析においては水質汚染に関する分析に絞って実施。
使用ツールのイメージ
Aqueduct(水リスク評価ツール):「水ストレス」の表示イメージ

WWF Water Risk Filter(水リスク評価ツール):「水質」の表示イメージ

IBAT(生物多様性リスク評価ツール):「KBA(Key Biodiversity Area)」、「自然保護区」の表示イメージ

分析結果(バリューチェーン上流)
バリューチェーン上流の原材料の調達では、主要な鉱物資源および綿花を対象に分析を実施しました。
主要な鉱物資源については、一部で貿易統計情報による推定も用いつつ、バリューチェーン上流の資源調達国およびその主要鉱山(水質汚染については製錬所も含む)を推定し、資源調達国の「生態系の改変」、「水質汚染」について分析を実施しました。結果、中国、オーストラリア、カナダ、ブラジル、ギニア、スウェーデンの各国の一部地域において、「生態系の改変」と「水質汚染」の双方の潜在的なリスクの懸念が、インド、インドネシアおよびジャマイカの一部地域において、「生態系改変」の潜在的リスクの懸念が確認されました。
なお鉱物資源のうち、金については産出国によっては小規模に分散して採掘している特徴も見られ、そのような場合は調達先の国レベルでの分析としています。金に関しては、中国、ロシア、ガーナ、カザフスタン、コロンビアの各国において国内各地で広く「生態系改変」、「水質汚染」の潜在的なリスクの懸念が確認されました。また、オーストラリアおよびカナダの一部の鉱山で「生態系改変」、「水質汚染」の潜在的なリスクの懸念が確認されました。加えて、メキシコの一部の鉱山で「生態系改変」の潜在的なリスクの懸念が確認されています。
綿花については、主要な調達先である3か国(アメリカ、ブラジル、オーストラリア)のいくつかの州の一部(アメリカ:カリフォルニア州、テネシー州の一部、オーストラリア:クイーンズランド州の一部、ブラジル:マッドグロッソ州、バイーア州、ゴイアス州の一部)で栽培に伴う「生態系の改変」、「水質汚染」、「水の利用」の各テーマで潜在的なリスクの懸念がある地域が確認されています。
分析結果(直接操業)
「水質汚染」および「水の利用」に関して、日清紡グループの国内外直接操業拠点68か所から潜在的なリスクの懸念がある拠点を特定しました。
「水質汚染」については東アジアの2拠点、「水の利用」に関しては東アジア、東南アジアを中心に16拠点で潜在的なリスクの懸念がある拠点が確認されています。
指標と目標
指標
日清紡グループでは、自然関連の事業機会の取り込みとリスクの低減を目指しています。自然関連リスクを低減するため、温室効果ガス排出量や、温室効果ガス以外の大気汚染物質の排出量、水使用量、生物多様性保全活動の実施の指標を設定し、自然関連課題に対する対応策を推進しています。今後、自然関連課題の分析結果を踏まえ、TNFDに基づく指標の開示を準備していきます。
目標
日清紡グループは、企業理念を実現するために提供する価値・姿勢を定めているVALUEの一つとして、「地球環境にやさしい製品やサービスを提供し、すべての人びとにとって安心・安全な社会を誠実に実現」することを掲げています。また、「行動指針」に「環境負荷への認識と配慮」を掲げています。生物多様性保護への認識を深め、生物多様性保全活動を推進するため、当社グループの環境目標・KPI※ に温室効果ガス排出量削減、水使用量の削減、生物多様性保全活動の強化を掲げ、計画的に対策を講じています。
※ KPI:Key Performance Indicator 業績管理指標・業績評価指標
2024年度を達成年度とする「第5期サステナビリティ推進計画」における活動状況と実績をもとに目標・KPIの見直しを行い、2027年度を達成年度とする「第6期サステナビリティ推進計画」の活動を2025年度よりスタートしました。
「サステナビリティ推進計画」の概要は、「サステナビリティ推進計画とKPI」をご覧ください。
当社グループの事業活動と環境負荷については、「マテリアルバランス」 ページをご覧ください。