基本的な考え方
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、原材料の調達から、生産、流通、使用、廃棄に至る製品のすべてのライフサイクルにおける投入資源、環境負荷およびそれらによる地球や生態系への潜在的な環境影響を定量的に評価する手法です。日清紡グループは、「行動指針」に環境負荷への認識と配慮を掲げ、製品の使用段階も含めたライフサイクルを通じた環境負荷の低減を推進し、すべての人びとにとって安心・安全な社会を誠実に実現します。当社グループの環境目標に「ライフサイクルアセスメント(LCA)の推進」を掲げ、KPI※ を管理して計画的に対策を講じています。
【主な対策】
- ①国内外において同一のLCAソフトを利用可能にして利便性を向上
- ②LCAソフト活用講習会の開催により、運用者の育成・拡大を推進
- ③製品LCAの結果をもとに化学物質や廃棄物の排出量を削減
- ④製品開発段階からLCAを導入し、環境配慮型製品の開発に活用
※ KPI:Key Performance Indicator 業績管理指標・業績評価指標
推進体制については、「環境マネジメント」にあります「推進体制」の記載をご参照ください。
日清紡グループの具体的な取り組み
LCA活動の推進
日清紡グループは、LCAソフトを有効に活用しながら、LCA活動の拡大を図り、LCAデータを算出して環境負荷の把握を行い、製品規格や製造工程改善、さらには環境配慮型製品の開発を推進しています。
製品LCAの結果をもとに、製造エネルギーや化学物質の排出量を削減することは勿論のこと、製品開発段階からLCAを導入し環境配慮型製品の開発に活用することで、「持続可能な社会に貢献する製品」の拡販につなげます。
グループ会社における活動事例
航海情報記録装置JCY-1900N2のLCA
日本無線(株)では、航海情報記録装置(JCY-1900N2)のLCAを、専用のソフトを使用して行いました。航海情報記録装置は、海難事故の原因究明のために船舶に設置され、各種データを記録する装置です。
製造段階では製造部門の使用電力、使用ガスなど金額ベースで按分して計算しています。また、船舶搭載機器であるため使用段階などのCO2は載発電機の燃料消費率から計算しました。
ライフサイクルでの温室効果ガス排出量は6.97 t-CO2であり、なかでも使用段階が84.8%(5.00 t/CO2)と最も多く、次いで部品製造段階12.8%(1.66 t-CO2)、製品製造段階2.26%(0.28 t-CO2)、廃棄段階が0.2%(0.03 t-CO2)でした。
使用段階では消費電力70 Wを製品寿命15年の前提で算出し、5.00 t-CO2と最も多くのCO2を排出していました。これは年間あたりにすると0.33 t-CO2であり、燃費10 km/Lの自家用車で1,400 km程度走行したときのCO2に相当します。70 Wの消費電力は、ミドルクラスのパソコンとLCDをあわせた程度の消費電力であり、カスタマー製品としては低消費電力です。
LCAデータの活用事例
日本無線硝子(株)では、年間に工場に投入されたすべての資材、資源、エネルギー、産業廃棄物などを年間生産量で割り、ガラス1kgあたりの必要投入量を算出してその数値をもとにLCAソフトを使用してLCAを実施しました。
結果は下図のようになりました。ガラス製品の環境負荷は製造時の負荷が圧倒的に多くを占めることが判明しました。同社はガラス成形が主体ですが、ガラスを溶解する手段としては電気溶解炉とガス溶解式のポット炉の2通りあります。電気溶解炉は、耐熱煉瓦の経年劣化で燃費が悪化するため、数年ごとの冷修で耐熱煉瓦を交換し燃費を改善しています。
省エネの観点からは、連続生産できる電気溶解炉で全部の製品を溶解する方が有利です。しかし、同社は多品種小ロットの製品にも対応することに競争力を有する会社であるため、ポット炉の生産は今後も継続していきます。ポット炉の省エネ活動としては、ポット炉の歩留改善などで生産効率を上げて稼働ポット数を減らすことに現在挑戦しています。
ケーブルプロテクタのLCA実施
南部化成(株) 大井川事業所では、2023年度取り組みの中で新規受注製品のケーブルプロテクタのLCAを行いました。
この受注製品は、2050年カーボンニュートラルを実現するための、再生可能エネルギー洋上風力発電と陸とを結ぶケーブルの内に入れ、光ファイバーケーブルを保護しつつ、ケーブルが外圧に耐えるための製品です。使用する材料は、環境に配慮し当初より再生原料を使用して押し出し成形しています。押し出し成形品を、直径2,800 mm×1,750 mm重さ約860 kgのドラムに約3,000 m巻き付け出荷しています。約3,000 mの製品になるため、形状不良・途中切れが生じると最初から巻き直しになります。
LCA結果は下図のとおりで、生産設備を運転するための動力源だけになります。CO2排出量を抑えるため、途中切れ対策・立上げ時間の短縮・引き取りスピードを上げ、生産効率を向上させていきます。
LCAによる温室効果ガス排出量の見える化
日清紡ケミカル(株)では、2023年度の環境への取り組みとして、燃料電池セパレータのLCAを実施しました。同社の燃料電池セパレータは、カーボン材料を加工して得られるカーボンセパレータで、耐食性、導電性、軽量性などの特長を持っています。
LCAは、ライフサイクルを調達段階(資源採掘からカーボン材料の入手まで)、製造段階(成形加工など)、廃棄段階(顧客使用後)、およびそれぞれにかかる輸送段階として実施し、その結果、地球温暖化の原因である温室効果ガス排出量は、カーボン材料の調達段階と製造段階の電力による排出が特に多いことがわかりました。
カーボン材料自体もその製造時に多くの電力を消費するため、消費電力の低減が温室効果ガス排出量低減につながります。すでに一部の製品では温室効果ガス排出量の少ないカーボン材料を使用していますが、LCAにより温室効果ガス排出量を定量化でき、見える化を図ることができました。
同社は今後も消費電力削減を進めつつ、コストダウンと環境負荷低減を目指してLCAを推進していきます。
燃料電池セパレータのGHG排出量
カーボンフットプリントの取り組み
日清紡テキスタイル(株)では、青山商事(株)との共同企画により、「洋服の青山」にて販売されているメンズ・レディースの綿100%ノーアイロンシャツ「APOLLOCOT(アポロコット)」で、原料調達から廃棄に至るまでの「カーボンフットプリント」を算出しました。
今回算出した「APOLLOCOT」シャツはインドネシア子会社での一貫生産品のため、各製造工程での使用エネルギー、薬剤、副資材は実際の活動量を使用して計算しています。商品のライフサイクル(原料調達→生産[紡織/生地加工/縫製]→流通→家庭使用→廃棄)で排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算するカーボンフットプリントは、サプライチェーン全体での排出量を数値として「見える化」し、情報を可視化・開示することができます。これにより排出量の多い工程が明確になり、より効果的な排出量削減アプローチが可能となる以外にも、お客さまがより低炭素な商品を選択する助けにもなります。