人権の尊重

基本的な考え方

日清紡グループの「行動指針」は、すべての社員が遵守すべき具体的な行動の指針です。その行動指針の第1項目に「人権の尊重」を掲げています。さらに企業として人権を守る責任の重さを真摯に受け止め、グループの経営姿勢として人権尊重に対する想いを言葉で対外的に表明した「日清紡グループ人権方針」を定めています。

当社グループの考える人権とは「人びとがそれぞれの多様な選択において豊かな人生を歩むことができる権利」です。企業は、人びとがそれぞれの思う幸せを目指して選択する機会を保障する責務があると考えています。当社グループは、人びとの安全で安心な生活環境を守る製品・技術・サービスを提供することで、今を生きる自分も含めた人びと、そして特にこれからを生きる子どもたちがそれぞれ幸せで豊かな人生を送ることができる「ウェルビーイング」な社会の実現を目指しています。

推進体制

日清紡グループは、日清紡ホールディングス(株) 経営戦略センター サステナビリティ推進室長を推進委員長とする推進体制のもと、経営戦略センター サステナビリティ推進室 人権啓発グループ主導で人権が尊重された社会の実現を目指した活動を行っています。

サステナビリティ推進計画における「人権啓発活動の推進」、「ビジネスと人権に関する取り組みの推進」を達成するために、目標・KPI を管理し対策を講じています。

※ KPI:Key Performance Indicator 業績管理指標・業績評価指標

日清紡グループの具体的な取り組み

「第5期サステナビリティ推進計画」では、人権の尊重を重点活動項目とし、以下2項目を目標として定めました。

  • ①(国内)グループ人権研修の実施率 100%(海外)人権啓発活動の実施
  • ②人権方針の策定、人権リスクの高い分野への人権デューデリジェンスの導入・促進

2024年度は人権デューデリジェンスの取り組みとして、国内外グループ会社における人権関連制度や救済制度の整備を確実に進めるとともに、人権の尊重を基盤としたサステナビリティ調達ガイドラインの改定を行っています。また2023年度に実施したアンケートで懸念のあった人権課題については啓発研修を実施しています。制度の整備状況については適切にモニタリングを行い、着実なPDCAによる人権デューデリジェンス活動に取り組んでいます。

2023年度は、「第5期サステナビリティ推進計画」に従い、人権方針の策定と人権デューデリジェンス活動の一環として国内外81社を対象にアンケートを実施しました。またKPIとして、グループ人権研修(年度別テーマ)の実施率100%を掲げ、目標達成に向け活動を進めました。

人権デューデリジェンスの実施

日清紡グループは、国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」で求められている「人権を尊重する企業の責任」を果たすため、2023年に人権方針を策定し、人権デューデリジェンスの取り組みを進めています。

グループ各社における人権デューデリジェンス実施の基盤となる「制度面」について現況を把握し是正の取り組みにつなげるため、国内外81社を対象に、制度整備・運用、人権課題に関する啓発・適切な取り組みなどの基本的対応を調査する「人権デューデリジェンスアンケート Basic 2023」を展開しました(回答率100%)。本アンケートでは、各社の取り組み・対応などの「実態面」についても調査し、人権リスクにつながる可能性のある事項を洗い出し、今後の取り組みを検討しています。

人権関連法規への対応

日清紡グループは、「ビジネスと人権に関する指導原則」の考え方を基本として、国内外グループ各社やサプライヤーが事業を行う国や地域において、英国奴隷法をはじめとする各国人権関連法規へ適切に対応します。具体的には、国内外グループ各社やサプライヤーが事業を行う国や地域における法規の社内周知・理解を促進し、適切な人権デューデリジェンスの取り組みを推進します。

人権啓発の取り組み

2024年度は、昨年に引き続き日清紡グループ全社対象の「グループ人権研修」を実施し、人権に関する考え方の基盤である「グループ人権方針」の理解深耕を図っています。人権デューデリジェンスとして各社における人権リスクの抽出と是正の取り組みに注力することを通じて、社員一人ひとりが「人権が尊重された社会を実現するための企業の責任を果たす」という意志(Will)を持ちながら、人権尊重社会の実現に貢献する会社を目指しています。

2023年度は、グループ人権研修として「グループ人権方針」の策定を周知・理解する目的で、人権方針策定の背景や想い、目指すところについて社長メッセージを動画で配信しました。また新入社員はもとより、年間を通じてキャリア入社の社員に対しても入社時人権研修を実施し、グループ共通の意志としての人権尊重について理解深耕を図りました。

人権啓発標語

日清紡グループでは、毎年12月の人権週間にちなみ、国内外の全グループ会社の社員とその家族を対象に人権啓発標語を募集し、優秀作品を表彰しています。海外グループ会社からもさまざまな言語で綴られた人権メッセージが届きます。

2023年度に実施した人権啓発標語には、国内外グループ社員から4,177点、その家族から102点、合計4,279点の応募がありました。そのうち海外グループ会社からの応募は約800点でした。主管である日清紡ホールディングス(株) サステナビリティ推進室において厳正な審査の結果、グローバル特別賞を含め15点を表彰しました。また今回は「人権デューデリジェンス特別賞」を実施し、ビジネスと人権をテーマとした作品の中から優秀作品を1点選出しました。

ハラスメントの防止

日清紡グループでは、ハラスメント防止のために国内グループ会社に「ハラスメント相談窓口」を設置し、複数の窓口担当者をおいて社員の相談にあたる体制を整えています。窓口担当者は各事業所で相談対応に適した要件を持つ人財が任命されます。新任時には「ハラスメント相談窓口新任担当者研修」を受講して相談対応のスキルを習得します。当社グループ全社の担当者に受講してもらうことで、窓口担当者の相談スキルレベルの統一化を図っています。相談対応をより効果的に行うため、フォローアップとしてロールプレイを主体とした研修も実施しています。

当社グループでは、適切な感情コントロールによるパワーハラスメントの防止と良好な職場内コミュニケーションの促進を目的に、2017年から国内全グループ会社の従業員を対象にアンガーマネジメント研修を実施しています。研修は、自分の怒りを上手にコントロールするアンガーマネジメントの基本を習得する「基礎研修」と、部下の成長を促す上手な叱り方を学ぶ管理職層向けの「叱り方研修」の2段階構成で展開しています。

受講者からは「自分で怒りをコントロールすることができることがわかり、適切なコミュニケーションにつなげられると感じた」「仕事上だけでなく日常生活全般で役立つ内容で、実践することで心に余裕ができた」など肯定的な声が寄せられており、今後も受講対象を拡げて全社員への実施を目指しています。

グループ会社における活動事例

差別禁止と人権尊重の取り組み

アメリカのNisshinbo Automotive Manufacturing Inc.では全社員を対象に、ダイバーシティとインクルージョン、差別とハラスメントに関する研修を毎年実施しています。同社は個人の尊重のために差別禁止ポリシーと採用応募ガイドラインを制定しており、定期的に更新しています。

同社は、職場の上司、部下、または同僚の社員間で生じた懸念事項などについて、直属の上司またはマネージャー、人事部と話し合うことのできる体制を整備しています。これにより、社員一人ひとりが、互いの人権と尊厳を尊重できるように取り組んでいます。

同社では、社員相互の尊重を徹底し、人権の保護に努めています。

顧問弁護士によるコンプライアンス研修

ジェイ・アール・シー特機(株)では定期的なコンプライアンス研修の一環として、2023年12月から2024年1月末の2カ月間に顧問弁護士による「パワーハラスメントについて」と題した研修を実施し、全社員が受講しました。

研修は顧問弁護士の説明を基にした研修ビデオによる受講形式とし、パワハラの定義からはじまり、パワハラの6類型、コンプライアンス通報、ケーススタディ(裁判例)、そして最後にパワハラをなくすためにという内容です。

パワハラ防止法は2020年6月に施行されました。①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応などについて、大企業は2020年6月、中小企業は2022年4月から措置を講じることが義務化されています。同社は、方針・社内規則・窓口などについて、社員およびサプライヤーさまへ改めてお知らせしました。

ハラスメント防止教育

日本無線硝子(株)では、パワハラ事案が発生した2020年以降、毎年ハラスメント防止教育を継続しています。

2022年度の教育実施後アンケートの結果をふまえ、2023年度は「ハラスメントと指導の違い」についての教育を6月から9月にかけて17回に分けて実施し、派遣社員も含めて従業員全員が受講しました。

各回7、8名ずつ参加して、各自がアニメーションや動画を見た後に、ハラスメントにあたる事例か、あるいは指導である事例かを判断して発表しました。最後にまとめとして、講師が判断にあたって重要な要素を伝えました。

アンケートでは、受講前に「ハラスメントについての理解が低い、あるいはやや低い」と答えた受講者が半数以上いましたが、受講後は数名に減少しました。アニメーションや動画を使ったことにより、わかりやすい教育になったと考えています。

管理職層向けハラスメント研修

日清紡マイクロデバイス(株)では、ハラスメントを起こさない職場風土づくりの強化・推進を通じて、従業員がいきいきと働きやすい良好な職場づくりを目指し、社内講師による「管理職層向けハラスメント研修」を実施しました。

研修では、ハラスメントは決して許さないというトップメッセージのもと、知識学習、事例動画と解説、ペアワークを行い、適切な知識や理解に基づいた「パワハラにならない対応方法」「ホワイトなマネジメント」などの要点を全管理職が学びました。

主要4事業所で実施した集合研修と同内容の動画研修を内製で作成し、ラーニングマネジメントシステムを活用して海外事業所や日清紡マイクロデバイスAT(株)、日清紡マイクロデバイス福岡(株)にも研修を展開しました。 加えて、ハラスメントに関する相談窓口や、会社制度などを資料にまとめ、上記3社の全従業員に周知しました。

マイクロデバイス事業グループでは、引き続きハラスメントのない組織づくりに取り組んでいきます。

管理職層向けハラスメント研修
管理職層向けハラスメント研修
ハラスメント動画研修1
ハラスメント動画研修
ハラスメント動画研修2
ハラスメント動画研修

職場でのいじめ防止制度の運用

韓国のSaeron Automotive Corporationでは、職場における上司、部下または同僚間のいじめ防止のため、社内の就業規則に職場内いじめ防止およびいじめが発生した場合の対応に関する規定を新設しました。

「従業員は職場での地位または関係などの優位を利用して業務上の適正な範囲を超えて他の職員に身体的、精神的苦痛を与え、勤務環境を悪化させる行為をしてはならない」と明文化し、本規定について全社従業員に年2回案内しています。この規定は、社内役職者だけでなく、派遣社員、サプライヤーさまにも範囲を広げて周知しています。また、同社のHR(Human Resource)チームでは職場におけるいじめの申告や発生事実を認知した場合、直ちに被害者と面談を実施し、被害者の意思に基づいて当事者間の解決または会社側で正式な調査を実施する対応を行っています。

同社は本制度の運用を通じて社員同士が互いの人権を尊重するよう努めています。

セクシャルハラスメント教育

インドのNisshinbo Mechatronics India Pvt. Ltd.では2023年2月に、ハラスメントに関する認識の統一や、ハラスメントに気づくきっかけづくりなどを目的として、外部講師によるセクシャルハラスメント教育を実施しました。

この教育では、以下のトピックが従業員に説明されました。

  • ①セクシャルハラスメントに該当する行為について
  • ②職場におけるハラスメントから従業員を保護し安全な職場環境を提供するために制定されたPOSH(Prevention of Sexual Harassment)法について
  • ③同法が適用される職場や対象となる従業員について
  • ④セクシャルハラスメントを受けた場合の相談・通報の仕方についてや、虚偽の苦情に対する罰則について
セクシャルハラスメント教育の参加者
セクシャルハラスメント教育の参加者

セクシャルハラスメント防止研修

インドのNisshinbo Comprehensive Precision Machining (Gurgaon) Pvt. Ltd.では、2023年11月にセクシャルハラスメント防止研修を実施しました。この研修は、法令理解とセクシャルハラスメントのない職場づくりを目的に実施しました。

研修では、以下のトピックが従業員に説明されました。

  • ・2013年POSH(Prevention of Sexual Harassment法)の概要
  • ・セクシャルハラスメントの種類と形態
  • ・会社のセクシャルハラスメント防止方針
  • ・セクシャルハラスメントの報告方法とサポートの利用方法

この研修は、外部講師によって実施され、質疑応答により、セクシャルハラスメントの重要性や防止方法について理解を深めることができました。

セクシャルハラスメント防止研修
セクシャルハラスメント防止研修

社長ホットラインBOXの設置

(株)エクセル東海では、2014年当時、「社員の生の声を聞きたい」という社長の意向に基づき、 一般社員との懇親会を開催しました。その際、「社長への報告は管理職のフィルターがかかっている」という課題が明らかになりました。その課題解決として、社員の生の声を聞くために設置した制度が「社長ホットラインBOX」です。

当初、投稿は多くありませんでしたが、積極的に意見を出せるように「投稿推進キャンペーン」を実施し、定着を図りました。自由記述式の投稿用紙も設置し、無記名での投稿も可能としました。投稿は、社長が直接目を通して対応しています。なかには誤解による投稿もあり、無記名投稿であったため投稿者本人に直接説明もできなかったことから、全体集会を開催して全社員に対して社長が説明した事例もありました。

BOX設置から10年が経過し、BOXの効果もあって現在では社内の風通しも良くなり、一般社員が社長と直接対話ができる土壌が築かれています。

社長ホットラインBOX
社長ホットラインBOX
ホットライン投稿用紙
ホットライン投稿用紙

SA8000認証の定期監査実施

インドネシアのPT. Naigai Shirts Indonesiaでは、2023年1月にSA8000認証を取得し、2023年6月にBV(BUREAU VERITAS CERTIFICATION)によるSA8000 定期監査を受審しました。また、2023年12月にはフォローアップ・レビュー監査を受審し、人権に関する取り組みが実行されていることが確認されました。

定期監査は毎年2回実施され、継続的にSA8000の基準を満たしていることを確認しています。監査内容は、従業員へのインタビューや勤務表(残業時間など)、救急箱の中身など多岐にわたります。認証期間は3年で、最終年には再認証を受けるための監査が実施されます。人権や労働問題の高まりを受け、欧米の企業ではSA8000の認証取得が取引条件のひとつとされる場合もあり、重要度が増しています。

※ SA8000(Social Accountability 8000)は、米国のNGOであるSAI(Social Accountability International)が公表している、国際人権宣言、ILO条約、その他の国際的な人権・労働に関する国家法規に基づいた、すべての従業員の権利の行使及び従業員の保護のための国際規格

SA8000定期監査
SA8000定期監査
SA8000認証
SA8000認証