日清紡グループの人財戦略

杉山 誠
常務執行役員
経営戦略センター サステナビリティ推進室長、
経営戦略センター 人財・総務室長
杉山 誠

「事業は人なり」の基本方針の下、多様性の中での団結を通じて、目指す姿の実現を図る

日清紡グループにおける人財の考え方について教えてください。

日清紡グループはこれまで、友好的なM&Aを行いながら成長を遂げてきました。今、グループ内には、歴史も背景も文化も異なり、各事業領域で実力のある多様な会社が集まっています。国内外で20,000名以上に上る、この多様なバックグラウンドを持った人財一人ひとりが、同じ方向を向いて日清紡グループで存分に力を発揮できるよう、2020年にグループ人事戦略を策定しました。その大きな方針は、日清紡が従来掲げてきた「事業は人なり」、すなわち「事業の盛衰は人の才徳に拠る」という考え方に集約されています。右上に示した人事ポリシーでは、将来の事業発展を見据え、新卒に限らず広く多様な人財を集め、適材適所に配置して育成をする。また、熱意と創造性を引き出すためのエンゲージメントは重要で、健康経営にも配慮し、能力のある人が適正に処遇される環境がなくてはいけないと考えています。

日清紡グループ人事戦略
~日清紡グループ人事ポリシー~

事業は人なり

―事業の盛衰は人の才徳に拠る-

  1. 今及びこれからの事業を担い発展させることに貢献できる人を、
  2. 採用し、育成し、適所に配置し、
  3. 熱意、創造性を引き出し、
  4. 心身の健康を保ち、
  5. 適正に評価し、適正に処遇する正しく稼ぐ人を各階層、各機能に持続的に育成・配置する。
グループ人事戦略を策定後、どのような施策を展開してきましたか。

2020年より、人財の発掘・抜擢、適所適材な人財配置への活用を目的に、一人ひとりの人財の持つスキルや能力、経験などの可視化を図る「タレントマネジメントシステム」を導入しました。また、全グループ会社の社員が、均等に、幅広く教育を受けられる「ラーニングマネジメントシステム」の運用も2021年4月より始めました。これらの取り組みは、結果的に女性管理職、管理職候補者層の増加にもつながっています。

※eラーニング機能と管理機能を持つクラウド型のラーニングマネジメントシステム(LMS) 「L-Click」

人財マネジメントを支えるこれら仕組みに加え、グループ横断的に人事関連の方針・課題等を共有する機会も格段に増えています。グループ人事部門会議には中核会社に限らず30社ほどの人事担当者が毎回集まりますが、持株会社の方針等を押し付けるのではなく、グループ各社のやり方を尊重した上で、グループとして一つの方向性に近づけることを目的にしています。コロナ禍ではオンライン開催が進み、海外出向者も含め、地理的制約や人数制限もなくフラットに共有を図ることができ、規模の小さな会社から持株会社と同一の人事制度の導入をしたいという要望が出るなど、変化も見られています。

必要とされる人財像とその育成方針について教えてください。

当社グループでは人財を3つの層に分け、「経営幹部・後継者クラス」には不透明・不確実で正解のない時代に挑戦・変革でき、世界で戦えるリーダー像を、「管理職・管理職候補クラス」には創造・変革によって事業化力・収益力を強化・牽引し正しく稼ぐ力を求めています。また、一般従業員には、デジタル化などの技術変化の大きな流れに対応し業務効率・生産性向上を実現できることを求め、そこから将来の変革リーダーの候補となる人財が輩出されることを期待しています。さらに、それぞれの層の強化に向けて、教育・研修プログラム等も積極的に展開しており、2015年に始めた経営者幹部候補育成プログラムでは、実際に今のグループ各社の幹部層の多くを輩出するなど成果も見えています。幹部候補予備軍の層を厚くするために、グループ横断でのワークショップの開催や、若手を対象としたイノベーションリーダー育成研修も開催しています。OJTのみでの人財育成は無理があると考えていますので、今後も積極的に人財開発への投資を行っていきます。

新たな人財の確保という視点では何を重視していますか。

過去に景気動向に応じて新卒採用数を調整してきた経緯から、人財の世代分布がいびつになっており、今後、グローバルで勝負する上では、この歪みを急速に是正しなければなりません。そこで、キャリア採用者の数を新卒採用者並みに引き上げ、多様な経験・文化を持った有能なキャリア人財が当社グループにソフトランディングできる環境の整備を進めています。制度面では新たに勤務地を限定したエリア職を創設したほか、企業風土としても、心理的安全性を担保した上で違いを認め、尊重し、互いの良さを活かし合うダイバーシティ&インクルージョンに注力しています。これは異文化がもたらす摩擦を受け入れることにも役立っています。毎年4月には、1年以内に入社したキャリア採用者も新卒向け集合研修に参加しますが、研修後には日清紡グループの改善が必要な点を指摘してもらうための座談会を開催し、キャリア採用者の視点を、経営層にもフィードバックしています。

人財戦略を推進する上での課題をどう認識していますか。

人財の世代別分布のばらつきに加え、今後は、経営方針や事業戦略を実現し得るデジタル人財などの高度専門人財を恒常的に採用・育成していく体制を強化する必要があります。また、イノベーションを生み出す源泉は人財の多様性にあると考えていますので、女性管理職や、外国籍社員も含めた多様な人財の育成・登用にも力を入れています。

グローバルでの人財育成に関しては、現在、国内主導で推進している経営幹部候補育成プログラムの受講者を、今後、海外からもより多く募る形で展開したいと考えています。また中国では、上海の拠点を中心に、中国内20社超のグループ社員約1,600名向けに、日本の3層別教育システムの簡易版を展開しています。現地のグループ社員にも好評で、今後はインドネシアやタイなどにも広げていきたいと思います。また、国内での外国籍社員の採用・育成も引き続き積極的に進めます。採用した人財が離職することもありますが、一度離れた人財が再び戻って活躍できる場を用意することも多様性の拡充につながると考えています。多様性に富んだ職場では、相互に刺激し合い、学び合うことが多く、人財の活性化という点で大きな価値を生み出すと私自身も実感しており、外国籍社員に限らず、新たな挑戦のために当社を巣立った人財とも友好な関係を保ち、再び戻れる機会を用意することで、多様性の強化、ひいては企業価値の向上につながると思います。

最後に、ステークホルダーに向けて一言、お願いします。

人財が持てる能力を発揮するには、心理的安全性の担保された環境の下で、働きがいを持てることが重要です。その一番の原動力になるのは、仕組みや制度、対価だけではなく、組織・事業の方向性への共感だと私は思います。多様な事業を展開する日清紡グループだからこそ、多様性あふれる人財が集い、その多様性の中で団結を強めていくことが、グループの成長と目指す姿の実現につながると考えています。