日本無線株式会社 小洗健取締役社長インタビュー

無線技術を活用したソリューションを軸に、5G時代で広がる市場とビジネス機会を捕捉する

日本無線株式会社
取締役社長
小洗 健
2020年12月期の振り返りを聞かせてください。

昨年はCOVID-19の影響なくしては語れない年でした。しかし、業界によってその影響には濃淡があり、各国のロックダウン(都市封鎖)が通期にわたって影響したマリンシステム事業がある一方で、自動車は早々に回復を見せ、また防災システムでは、工期や発注タイミングのずれは生じたものの、底堅い官需を背景に計画どおり進捗しました。

未曾有の危機下では、異なる性質の事業をバランスよくポートフォリオとして持つことは経営の安定化に大きく寄与します。現時点でも事業の多様性はありますが領域としてはまだ限定的であり、今後さらに事業ポートフォリオの多様化を進めることで、外部環境に左右されにくい、より盤石な事業構造へと変革したいと思います。また業務の進め方や働き方の点でも、リモートワークやオンラインを活用した営業活動等、コロナ禍の中で自らの意識を変革して進めた新しい挑戦には、引き続き取り組んでいきます。

グループの中核を成すJRCの無線技術が持つ強みを教えてください。

音声・画像等のデータ伝送を、ケーブルを使わずに無線でできる利便性は、移動時を中心に多くの方がその効能を感じていると思います。それが今、5G(第5世代移動通信システム)の時代が到来し、これまでは大規模な通信事業者にだけ許可されていた通信システムが広く産業に解放されるようになり、IoTを支える軸としての無線通信事業の可能性が飛躍的に広がっています。新規参入も含め競合は多いものの、当社としては、眼前に広がる非常に大きなビジネスチャンスを前に、当社の競争優位性を発揮して成長の軸としていきます。

5Gでは、全国規模の公衆網とは別に、小規模で局所的な自営網(プライベートネットワーク)であるローカル5Gの構築が可能となります。海外ではすでに4G(第4世代移動通信システム)からプライベート4Gが活用されており、当社は海外でのプライベート4Gの無線通信システムを提供する中で、さまざまなノウハウを蓄積してきました。電波がどこまで届いてどこからは届かないのか、目に見えない無線通信の基地局設置にはかなり高度なノウハウや設計技術を要しますが、この領域こそ当社の得意分野です。これまでの経験やノウハウ、さらには実績をもとに差異化を図り、お客様にご満足いただけるソリューションを提供していきます。また、無線通信システムの構築にはさまざまなソフトウェアが必要ですが、オープンイノベーション戦略の下、海外でさまざまな機能や技術を組み合わせて大きなシステムに仕立てるインテグレーションスキルを発揮することで、工期を短縮するだけでなく、競合に対してもコスト競争力の面で優位性を示せると考えています。

ビジネス機会が広がっている中で、どのようなリスクや課題を認識していますか。

当社はこれまで開発型の企業集団として、当社技術の強みを活用してお客様課題の解決に貢献してきました。しかし今後は、技術を活用したソリューションを提供することで、事業価値と収益力を高めていく必要があります。その道筋では、従来の「モノ」から「コト」へと発想・視点の転換が求められます。すでに日清紡ホールディングス内にデジタルビジネス推進室を新設し、グループ各社から人材が集まることでトライアル的なインキュベーション案件がいくつか生まれていますが、日本無線にはない視点や技術も取り込むオープンイノベーションを推進していく力を強化することが、今後の課題だと感じています。

3つの戦略的事業領域のうち、「モビリティ」領域は今後どう展開していきますか。

モビリティでは、車や船舶に限らず、飛行機や鉄道など、個別の交通機関の「モノ」から、その交通機関を含めたシステム全体の「コト」まで、お客様課題の解決に資するソリューション提供の視点でビジネスを進めていきます。自動車産業は百年に一度と言われる大変革にあり、それを機会と捉えて、CASEの“コネクテッド”を実現する通信と、“オートノマス(自動運転)”の要となるセンシングの領域で、レーダーや超音波センサーの実用化・進化に貢献します。また、交通インフラ上にあるカメラやレーダーなどの異なるセンサーから収集できる生情報を融合する「センサーフュージョン」を通じて、利用価値の高いソリューションの提供を図っていきます。船舶は自動化運航の方向に進むことは間違いありません。陸上に比べ波・風含めた厳しい気象状況下において、船舶の運動特性(ゆっくりとしか曲がれない)の制約の中、自動化を進めることは非常にチャレンジングですが、外部のプロジェクト等にも参画しながら、センシングの活用技術等を積み重ね、実用度を高めていきます。また海そのものは、船の航行に限らず、気象データや海洋資源、洋上風力発電など、ソリューションビジネスを展開する上で潜在力の大きな市場ですので、海の「見える化」に資するソリューションの創出にも注力します。

※ CASE: 自動車の次世代技術やサービスの新たな潮流を表す英語の頭文字4つをつなげた造語。「C=コネクテッド(つながる)」「A=オートノマス(自動運転)」「S=シェアリング(共有)」「E=エレクトリシティー(電動化)」を指す。100年に1度の大変革を自動車産業にもたらす可能性がある。

「インフラストラクチャー&セーフティー」領域はいかがでしょうか?

インフラ面では、交通量の計測や高速道路での逆走検知・防止など、交通インフラのセンシング技術で収集したデータを引き続き、利用価値の高いソリューションとして提供していきます。セーフティー領域では、自然災害が激甚化する中で、防災システムの高性能化はもちろんのこと、局所対応も可能な緻密さも併せて追求していきます。例えば昨今の台風や線状降水帯がもたらす河川の氾濫は、大きなエリアをカバーする気象レーダーだけでは災害予測が難しく、小さな河川流域に低コストで数多くのレーダーを設置するなどして治水を考えていく必要があります。こうした防災システム等に対する底堅い官需を確実に取り込むことで、着実な事業成長を図っていきます。

「ライフ&ヘルスケア」領域ではいかがでしょうか?

超音波診断装置はすでに一定規模の事業に成長しており、最近ポータブル用途に開発したハンディエコーも往診や訪問医療などでご利用いただいています。この領域での無線技術は、例えば筋肉や脂肪の可視化によって健康の度合いを測れるなど、サービスとしての可能性も秘めており、今後、メディカルに限定せずに広い領域でのサービス展開を図っていきます。