アナリストインタビュー

ニッチな成長市場で高いシェアを持つ事業群で構成された 企業グループへの成長を期待します。

日清紡ホールディングス(株)(以下、日清紡HD)の経営と企業価値について、資本市場はどのような評価をしているのか、長年当社グループの調査を担当し、多数のレポートを発行しているみずほ証券(株)の山田アナリストにお話を伺いました。

シニアアナリスト
エクイティ調査部
みずほ証券株式会社
山田 幹也

資本市場における認知と評価について

日清紡HDは資本市場において十分な認知度を持っており、期待も大きい銘柄であると言えます。しかし、残念ながら現在の株価純資産倍率が示すとおり、高い評価を得ているとは言えません。原因として、以下の3つが考えられます。①エレクトロニクス事業の業績が不透明なこと。②安定収益が期待されたブレーキ事業で損失が出たこと。③小粒でキラリと光る成長事業が多いものの、明確な成長ドライバーに欠けること。

「環境・エネルギーカンパニー」グループを目指すビジョンは納得感があるものですが、それが現状では収益に結び付いていないことが問題です。例えば「超スマート社会」は情報通信を有効活用した超効率社会です。日清紡HDの企業規模では、情報通信インフラの本丸を担当することは困難ですが、電子部品や通信のインターフェースにおけるデジタルアナログコンバージョン、すなわち情報の視覚化などにおいて自社技術を活かせると思っています。ブレーキ事業においても、自動運転の初期段階ではブレーキの使用頻度が増える公算大であり、環境性能の観点からも銅フリーブレーキの需要が伸びるというわかりやすいシナリオがあります。しかし、こうしたこととは関係ない部分で、なかなか利益を出せないというのが、高い評価につながらない理由だと思います。

日清紡HDは、身の丈に合った競争優位領域に経営資源を傾斜配分しており、経営のコンセプトは良いと思いますが、それが業績につながらないので、経営戦略と経営執行に何かギャップを感じます。

中核事業への経営資源集中

日清紡HDの事業ポートフォリオ戦略は、中核事業へと経営資源を集中できており、大変高く評価しています。特に、中核事業でなければ利益が出ていても売却するという方針の強さは、ほかの日本企業のお手本とも言えましょう。2017年に日本無線(株)を100%子会社としましたが、よりスピーディに同社の構造改革を実行できる体制となり、ポジティブと評価をしています。新日本無線(株)も同様です。繊維やエレクトロニクスにおいても、小型案件ながらM&Aを利用した事業の強化を行っており、好感を持っています。M&Aのポイントの一つは高値づかみをしないことですが、日清紡HDのM&Aは常に友好的な文脈で行われており、買値に関しては問題が起きにくいと思います。

一方で、TMD社が完全子会社になってから7年目の2018年12月期に、業績が大幅に悪化したことから、Post-Merger Integrationが不十分だったのではという懸念があります。日清紡HDのM&Aは、近年急速に習熟度を増したイメージがあるため、今後は目に見える数値の改善を期待します。

日清紡グループのビジョン

日清紡HDは2025年の業績目標として、ROE 12%を掲げており、売上規模よりも資本効率を優先した経営を行うとしています。もちろん資本効率の優先は当たり前のことで、ニッチな成長市場で高いシェアを持つ事業群で構成された企業グループへの成長を期待します。今は収益的に苦しい大型船舶のレーダーも、コンピタンスがあり、世界貿易の増加とともに長期的な成長が見込めるならば、ビジョンに合致するビジネスでしょう。営業利益率の必要最低レベルは6-7%でしょうか。

「環境・エネルギーカンパニー」グループは、正しい企業ビジョンであり、日清紡HDはバックキャスト的な経営を志向していると思います。バックキャストは、自社のステークホルダーを一つのベクトルに束ね、目標に邁進するために有効な手法です。難しいのは未来自体が刻々と変化することです。冷徹な現状認識と卓越したエグゼキューションにより、環境変化に対応しつつ、明確なビジョンに適合した結果を出せるのが、優れた経営者だと思っています。逆にそれができないとバックキャスト経営は単なる妄想に陥ります。

日清紡HDでも、掲げた経営テーマに対して結果が見えていないことがいくつかあります。無線・通信における中小型船舶市場の開拓やTMD社の拠点集約などです。今後は掲げたテーマに対するマイルスト-ンや定量的な見通しを提示し、有言実行していくことを期待します。

日清紡グループのESG

伝統的に化学・繊維会社として、廃棄物などには細心の注意を払ってきたので、ほかの日本企業同様に、環境対応はしっかりやっていると思います。社会面では、BtoB事業が多いせいか、あまり情報が表に出てきませんが、大きな課題はないと言えるでしょう。日清紡HDは製品・サービスを通じた環境・社会への貢献が明確ですが、事業活動を実施する上でも環境・社会をもっと前面に押し出すべきと考えます。

コーポレート・ガバナンスには、何か決まった手法はないと思っています。大事なのは経営のリーダーシップを十分に発揮させ、それを腐敗させないことです。今の日清紡HDは、エレクトロニクスとブレーキを中心に、企業として一段上のステージへと脱皮を目指す時期にあり、強力なリーダーシップと卓越したエグゼキューションがともに必要な時期であると判断します。日清紡HDの経営は、課題も明確で、企業価値を向上させようという意気込みも高いと思います。経営トップのリーダーシップを長期的な業績改善につなげる、卓越したエグゼキューションとコーポレート・ガバナンスに期待します。