トップメッセージ

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日清紡グループ 企業理念、目指す姿

日清紡グループは「事業活動を通じて社会に貢献すること」を使命とし、社会に貢献できる領域を軸に事業の組み換えを続けてまいりました。

これからもグループの強みを活かしたソリューションを提供することで、社会課題の解決に貢献することを目指していきます。

日清紡グループ 企業理念、目指す姿

事業ポートフォリオを大きく変革させた2023年度

日清紡グループは企業理念に、「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」を掲げ、事業ポートフォリオ変革を推し進めてきました。そこには、社会のニーズに合わせて事業ポートフォリオを変えていかなければ、競争力を失い会社として存続できないという危機感がありました。企業にとって重要なのは、常に変化することです。

2023年度は、欧州のブレーキ事業を手掛けていたTMD Friction Group(TMD)のカーブアウトと並行して、高速大容量通信技術や映像技術に強みを持つ(株)日立国際電気の買収を完了させ、事業ポートフォリオが大きく動いた1年となりました。この結果、コア事業である無線・通信事業とマイクロデバイス事業を合わせた売上構成比率は、2023年度の44% から2024年度には60%を超える見込みです。

しかし、2023年度の業績は残念ながら増収減益という結果となりました。最適なコスト構造の実現にいたっておらず、「正しく儲ける」ことに対する貪欲さがまだ足りていません。個々の事業の競争力の強化のため、事業や製品の見切りを加速させる必要があります。

事業ポートフォリオ

カーブアウト・M&Aの意思決定

昨年、M&Aやカーブアウトは常時仕掛かり中だと申し上げました。TMDのカーブアウトと(株)日立国際電気のM&Aは、どちらも完了までに4年を要しました。

TMDは、当社グループが世界のブレーキ市場でトップシェアを獲得することを目的に2011年に買収した企業です。もともと日清紡ブレーキ(株)は、日本・米国・韓国・中国市場向けに強みがあり、ミッシング・ピースだった欧州の有力メーカー・TMDをグループ化したことで、市場優位を確保できました。しかしその後、市場環境に急速な変化が起こりました。自動車業界におけるxEV化の加速、そして欧州におけるブレーキの粉塵規制です。TMDの収益基盤である補修品市場の縮小懸念が高まり、規制に対応するために多額の開発投資が必要となってきました。TMDが抱えることになったこれらの将来リスクを見極め、2019年から譲渡の方向で準備を進めてきました。

一方、(株)日立国際電気の買収は、無線・通信事業におけるソリューションビジネスの収益基盤を固め、成長戦略を加速させることが目的です。日本無線(株)は防災システムや監視制御システムなどの社会インフラから船舶や自動車などの移動体通信機器に至るまで、幅広い無線・通信事業を展開していますが、事業としての収益基盤の岩盤は官需ソリューションです。(株)日立国際電気は高度な映像・通信技術によって、官公庁向けをメインにソリューション事業を展開しており、技術・販売の双方において、両社は補完関係にあります。特に、高速大容量通信技術と映像技術の親和性は高く、同社をグループ会社化することで、産業向けソリューション分野を中心に、市場領域と技術領域を拡大できると期待しています。

日本無線と日立国際電気のソリューション事業

「中期経営計画2026」を発表

TMDと(株)日立国際電気という大きな案件がひと段落し、事業ポートフォリオ変革が大きく進んだことから、2024年2月に「中期経営計画2026」を公表しました。中期経営計画の策定・発表に向けては、骨格段階から社外取締役を交えて討議し、株主の皆様をはじめとするさまざまなステークホルダーの視点を踏まえ、時間をかけて多角的な議論を重ねました。

人間社会が直面している喫緊の課題は、環境破壊と地球温暖化問題です。ですから、この地球環境問題にソリューションを提供することが、当社の企業理念に適う事業となります。まずは、気候変動に起因して頻発する災害といった、私たちの目の前の課題に、防災無線やセンサーネットワークを提供することで人の命を守る。そして、プライベートLTEやローカル5Gといった通信システム、マイクロデバイス、ブレーキ摩擦材や燃料電池セパレータなどの環境素材で、環境問題にソリューションを提供していく。そしてさらに、レーダーやGPS、超音波センサー等、当社グループがモノづくりで極めた技術や製品を活用することで、サービス事業を展開し、事業領域の拡大と、データビジネスの成長を通じた収益性の向上を図っていきます。

中期経営計画の位置づけー基盤構築の3年

当社グループの目指す姿は、「つなげる技術で価値を創る(Connect Everything, Create Value)」姿であり、そのために、センシング・無線通信・情報処理技術で、社会課題へのソリューションを提供していきます。

2024年からの3年間は、この目指す姿の実現に向け礎を築く期間と位置付け、重点施策として、「事業ポートフォリオ変革の追求」「将来の成長に向けたビジネスモデル構築と経営資源の重点投入」「経営基盤の更なる強化による経営リスクの低減」の3つを定めました。

引き続き事業ポートフォリオの変革を推し進め、無線・通信事業とマイクロデバイス事業を軸に、M&Aを含めた成長投資を積極的に行います。また同時に、事業の見極めも加速していきます。当社では事業別にWACCやROICを算出していますが、企業理念との整合性、市場の成長性や市場における事業の競争力、収益性や資本の効率性など総合的に事業を評価し、成長事業とするのか、縮小または譲渡するのかを検討していきます。

次に、「将来の成長に向けたビジネスモデル構築と経営資源の重点投入」ですが、これは無線・通信事業とマイクロデバイス事業への積極投資に加え、これまでのモノづくりで極めた技術や製品を活用し、データサービス事業へと展開していく、事業領域の拡大を企図しています。データビジネスは、製品が収集したデータをどうビジネスにしていくかがポイントになります。例えばマリン事業での「J-Marine Cloud」に集まる船の航行データは、自動航行を実現する上で不可欠な材料であり、海から空へと目線を上げれば、航空管制や気象レーダーを活用したビジネス展開も視野に入ります。モノづくりをベースにDXでデータビジネスへと発展させるために、スタートアップに出資し、人的交流や人財育成を通じて、知見をグループ内に蓄積しています。

そして、「経営基盤の更なる強化による経営リスクの低減」ですが、自社に関係するすべての人の人権の尊重・保護を大前提とし、環境負荷に配慮したビジネスの展開、多様な人財の獲得・育成・活躍の促進、責任あるサプライチェーンの構築、コーポレートガバナンスの実効性向上を図っていきます。地球環境を守り・改善するサステナビリティ経営を推進することは、当社グループの理念にも合致し、SDGs達成への貢献にもつながります。

初年度となる2024年度の見通し

「中期経営計画2026」の3年間では、ポートフォリオ変革を通じて、最終年度の2026年度に、売上高5,800億円、営業利益380億円、営業利益率6.5%、ROIC6%、ROE10%という目標数値を掲げました。これらは、2035年近傍に目指す姿を念頭に、各事業のオーガニック成長に若干のストレッチをかけて策定したもので、根拠のある数値となっています。

その上で、中期経営計画初年度となる2024年度は、「誠実な事業活動で利益創出」をグループスローガンに掲げ、売上高5,130億円、営業利益240億円、経常利益260億円、親会社株主に帰属する当期純利益190億円を見込んでいます。それぞれの事業別に見ると、無線・通信事業では、安定した公共事業予算を背景にソリューション・特機事業が堅調に推移すると予想されることに加え、(株)日立国際電気のグループ化などにより、大幅な増収増益を見込む計画としました。マイクロデバイス事業では、車載製品が引き続き堅調に推移する見通しであることに加え、2023年度に大きく減少したスマートフォンやPC関連などの民生製品の市況も、下期から回復基調に入ることを想定した計画としましたが、市況の回復状況については予断を許さない状況です。ブレーキ事業では、環境規制に対応した銅レス・銅フリー摩擦材は、引き続き堅調に受注が進んでいますが、前期との対比では、TMDの事業譲渡の影響もあり、事業全体では減収減益の見通しです。精密機器、化学品、繊維の各事業は、市場の成長や受注増を背景に増収増益の見通しを立てており、不動産事業についても、保有資産の計画的な分譲を進めることで、増収増益を計画しています。

「中期経営計画2006」より抜粋

PBR向上施策と株主還元

エレクトロニクス事業を軸に、収益基盤の確立を目指していますが、2023年度の実績を見ても、収益性や安定的な利益基盤の確立という点では課題を残しています。PBRも1倍に満たない水準で推移しており、現状では株主の皆様の期待に応えられていない、投資家の皆様からの信頼を十分に得られていないものと認識し、深く反省しています。

ではどのようにPBR を向上させていくか。PBRはROEとPERの掛け算ですから、まずは利益率を高め、ROEの向上を図ることが先決です。正しく儲けて企業価値を高め、株主の皆様からのご期待に応え、その結果、株価が上昇する。そうしたサイクルを回せるよう、既存事業の利益率向上とともに、M&Aやカーブアウトも含めた事業ポートフォリオ変革を進めます。加えて、資産効率を高めるために、政策保有株式については縮減の方向性を堅持しつつ、整理が進んでいる不動産についても、さらに計画的に分譲を進めていきます。

株価上昇を目的化してしまうと、成長投資や賃金の抑制、過剰な株主還元や財務レバレッジなどにつながり、財務の安定性や長期的には企業価値の毀損をもたらしかねません。重要なのはバランスであり、企業価値を高める経営です。結果としての株価上昇を目指します。そのため、しっかりと将来を見据えた成長投資を行い、同時に社員に満足して働いていただくことでリターンを生み出し、株主の皆様に還元していく。この仕組みをしっかりと回していきます。

株主還元については、十分な成長戦略投資を行った上で、まずは安定配当を継続しながら、配当性向は40%を目指します。さらに自己株取得は、資本構成や中長期的なフリーキャッシュフローの見通し等を勘案した上で機動的に行う方針です。配当性向を今の30%の水準から40%へと高めていくためにも、ポートフォリオの組み換えも含め、収益性の向上に取り組んでいきます。

人権の尊重を大前提としたサステナビリティ経営

こうした事業活動を支える経営基盤については、引き続きサステナビリティ経営を強化・推進していきます。2023年8月には、新たに「日清紡グループ人権方針」を策定し、サステナビリティ経営基盤をさらに強化しました。当社グループの考える人権とは、「人びとがそれぞれの多様な選択において豊かな人生を歩むことができる権利」であり、非常に広い概念です。

2024年に本格的に始動する人権デューデリジェンス(人権DD)で、経営が考えるべきリスクは、人に対する人権リスクであり、企業にとっての経営リスクではありません。人権への負の影響の深刻度の高いものから対応することが求められますが、これは個人に与える影響がどの程度深刻であるかであって、人権侵害が発覚した場合に企業に生じる影響がどの程度深刻であるかという経営リスクは関係ありません。人権DDには、従業員の安全衛生や差別・ハラスメント、事業活動に起因する環境問題など認識すべき課題が多く含まれ、対象範囲も、調達先などのサプライチェーンや、投資先、合弁パートナーなど広範囲にわたります。事業継続のためにも長期の時間軸で取り組まなければなりません。

また当社グループが、地球環境問題に対するソリューション提供を通じて成長を図ることを決めたときから20年ほど経ちますが、環境問題は、今なお何も変わらないどころか、ますます悪化の途をたどっています。当社グループとしては、温室効果ガス排出量削減について、2050年のカーボンニュートラル達成を目指し、2030年に2014年度比50%削減を目標として置き、事業活動に取り組んでいます。

人財の取り組みに関しては、年功色を排した実力主義へ転換し、若手の抜擢や外部人財の活用を進めています。人事制度も役割等級制度を導入し、複線型で乗り換え可能な人事制度に改定しました。会社がなすべきことは、社員に活躍の場を与えることであり、その施策として以前から導入している自己申告制度や社内人材公募制度は広く活用されています。また事業活動を進める上で、「安全は全ての基本」です。安全衛生活動やあくなきカイゼン活動の推進で、労働災害ゼロを目指し続けます。

ステークホルダーの皆様へ

これまでの約10年で、当社グループの事業ポートフォリオは大きく変容し、事業の多様化も進みました。中核会社への権限委譲も進み、2009年に持株会社制へ移行した時の目的であった、機動的な事業運営や意思決定の迅速化も前進しています。

そうした変化を遂げながらも、当社が変わらず持ち続けている財産がお客様をはじめとするステークホルダーの皆様からの信頼です。信頼や満足は、公正を期し誠実な気持ちを貫くことで得ることができますが、勝ち得るまでに長い月日を要する一方で、それを失うのは一瞬です。当社はとても「真面目」な風土だと私は感じていますが、引き続き誠実にかつ目標達成に向けて自己に厳しく努力を続けることで、信頼という財産を守り、よりスピード感のある風土へと変えていきたいと思います。

企業価値についても、多様化した事業の集合体としての強みを存分に生かすことができれば、ディスカウントにはなりません。持株会社がプロデューサーとなって、しっかりと横串機能を果たし、エッジの効いたコア技術を有するグループ各社の優位性が発揮でき、かつシナジーを創出できるテーマを選定していきます。そのために必要な人財を確保し、資金を投じて事業を開発し、それらをグループ各社に戻して事業化していくというサイクルを回していきます。モノづくりからデータビジネスへと事業領域を広げていく過程では、スピード勝負で果敢に挑戦することも必要です。挑戦には失敗がつきものですが、失敗を許しチームとして次へと活かす風土がイノベーションにつながります。

これからもステークホルダーの皆様への心配りを怠らずに、事業の見極めや見切り、そして事業ポートフォリオ変革など、さまざまな挑戦を通じて企業価値の向上を図っていきます。