トップメッセージ

サービス業への領域拡大を通して「正しく儲ける」ことを追求します

企業理念とポートフォリオ経営

私は、組織における役職とは一種のフィクションだと考えています。社長に限らずそれぞれの役職にそれぞれ求められる機能があり、その役職に就いた者にそれを全うする義務があります。また、その役割をバトンリレーのように人から人へと引き継いでいかねばなりません。社長の役割を一言でいうと、企業理念を具現化し企業グループを成長へと導くことです。社長のたすきは重いものですが、自分の役割をしっかりと果たしたいと考えます。

当社グループは、企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」の具現化を通して、多様性の中での団結により、企業グループの成長を目指しています。この理念は、「企業は人間社会に貢献することをその存在理由とし、継続的貢献をもって成長の原動力とする」という「企業公器」の考え方を礎としています。また、「環境・エネルギーカンパニー」グループとして、安全で安心な暮らしに貢献するという事業方針は、この企業理念から導かれたものです。

このように、当社グループの事業は社会に必要とされることが大前提になっています。であれば、事業ポートフォリオは、時代に合わせ、世の中のニーズに合わせ、刻々と変わっていかねばなりません。持株会社制への移行以来、当社グループは事業の買収、譲渡を繰り返し、常に最適な事業ポートフォリオを模索してきました。今後とも社会に必要とされる事業とは何かを問い続け、「環境・エネルギーカンパニー」グループとして、より成長を加速すべく、事業ポートフォリオの組み換えに積極的に取り組んでいきます。

当社グループは1907年創立の繊維事業で知られていますが、実は最も古い祖業はブレーキ摩擦材で、TMD社のルーツは1878年までさかのぼります。日本無線(株)は1915年創立です。こうした多様な源流を組み合わせ、イノベーションを創出し、社会が直面する課題解決に貢献していきたいと考えています。

中長期経営戦略

企業理念

挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。

  • 「環境・エネルギーカンパニー」グループとして、社会が直面する課題にソリューションを提供、事業を通して持続可能な社会づくりに貢献
  • グループ経営・グローバル経営の深化を図り、グループ横断的な取り組みを加速。多様性の中での団結を進め企業価値を向上
  • 社会のニーズに応えるために、事業ポートフォリオの見直しを継続
  • 「モノ」に加えて「コト」「サービス」の視点を高める

長期目標

ROE 12%達成(2025年度)

事業のサービス化

メーカーである当社グループにとって、モノづくりを極めることは重要な使命です。しかし、ビジネスの境界線がなくなる時代を迎えた今、当社グループもモノづくりを極めるだけの製造業から、モノづくりの技術や製品を活用した価値を提供するサービス業へと事業領域を広げていく必要があります。

例えば、日本無線(株)は船舶向けレーダーなどを製造している会社ですが、現在はJ-Marine NeCST(Navigationalelectronic Conning Station Table)という電子海図と気象データ、運航データをインターネットで統合した情報トータルサービスを提供しています。このシステムは、航海の効率性と安全性に大きく貢献します。

こうした事業のサービス化には、グループの持つ事業領域の多様性や人の多様性、価値観の多様性をコーディネートし、足りないリソースは社外との連携やM&Aによって補うことで、変化(イノベーション)を引き起こす必要があります。

現在当社グループでは、各グループが知恵を持ち合い、新事業の開発を行う「グループR&D活動」を活発に行っています。また、若手社員を中心に当社グループの将来のあるべき姿を検討するワークショップを行うなど、グループ内部の多様性からイノベーションを生み出す試みに取り組んでいます。こうした活動の中から次々と新事業が発案されていますが、その大半がモノとサービスの組み合わせになっており、当社グループの意識改革が徐々に根付きつつあると感じています。

戦略的事業領域

2019年より当社グループの事業領域を「モビリティ」「インフラストラクチャー&セーフティー」「ライフ&ヘルスケア」に再定義しました。これは社会ニーズと当社グループの事業の双方で、「モビリティ」へのシフトが加速しているためです。これまでのオートモーティブと違って、今後は自動車から各種作業機械、船舶、航空機、ドローンに至るまで、移動体の技術的な垣根がなくなっていきます。

そうした視点で見ると、当社グループの売上高の6割以上が、すでにモビリティ向けになっています。一方で、モビリティビジネスは、事業サイクルが従来の無線・通信事業よりも速いため、日本無線(株)のほかの事業と同種の意思決定の手法では対応できません。当期にモビリティに特化したJRCモビリティ(株)を設立したのはこのためです。

現在、日本無線(株)のオートモーティブ事業では自動車通行料金の自動課金システム関連製品などの出荷がどんどん増加しており、こうした事業を2020年にJRCモビリティ(株)に移管する予定です。また、JRCモビリティ(株)が現在開発を進めている、ADAS向け車載レーダーは、受託開発ステージに入っています。

インフラストラクチャーとしては、水素関連ビジネスが重要です。この分野では、徐々に将来の燃料電池の使用方法が見えてきました。燃料電池は、リチウムイオン電池の充電時間に比べ、短い時間で燃料となる水素を充填することができ、エネルギー当たりの重量が軽いという特長があります。よって、自動車でも乗用車はリチウムイオン電池、輸送車や作業車は燃料電池というすみ分け、ドローンには燃料電池、電車にはリチウムイオン電池と燃料電池の併用など、燃料電池の世界が具体的に想定され、広がり始めています。当社グループのカーボン技術を用いたセパレータと白金代替触媒は、こうした水素社会発展へのコスト面のハードルを解決する製品です。現在は、カナダの燃料電池メーカーであるバラード社とともに、フォークリフトや燃料電池車への採用を見据えた開発、拡販を継続しています。

上記に加え、防災・減災への取り組みは、伝統的にも当社グループの使命だと考えていますし、当社グループの持つセンサーや超音波、無線技術を医療分野などに応用することで、新しいビジネスが立ち上がってくると考えています。

※ Advanced Driver Assistance Systems:先進運転支援システム

戦略的事業領域

〇モビリティ

  • 自動車に加え、各種作業機械、船舶、航空機、ドローンなどの分野でも事業展開
  • 部品・部材の製造にとどまらず、機器により収集したデータを活用し、安全運航・省エネサポートビジネスなどへ取り組み

〇インフラストラクチャー&セーフティー

  • 防災、減災への貢献(水・河川管理システムや気象レーダーなど)
  • 水素社会実現への貢献(燃料電池用部材の開発)

〇ライフ&ヘルスケア

  • センサー、超音波、無線など得意技術を活用し、新たなビジネスを創出

2018年12月期の業績

2018年12月決算は、決算期変更のため変則的な決算となりました。具体的には、従来と比較して3月決算のグループ会社の1-3月期分が少なくなっています。しかしそれ以上に大きな要因として、日本無線(株)の収益が1-3月期に偏重する傾向があるため、前期2018年3月決算と比較すると、数字上はかなり縮小したように見えます。

正しい前期比較を行うため、以下では、同条件の調整後前期決算と当期を比較します。

当期の売上高は、4,162億円と調整後前期比0.7%増となりました。マイクロデバイス事業は、リコー電子デバイス(株)が当社グループに入ったことで大幅な増収となりましたが、ブレーキ事業で、ファウンデーションブレーキを事業譲渡したことで減収となりました。精密機器、化学品は順調に成長していますが、繊維と不動産が減収となっています。

営業利益は、調整後前期の78億円から、当期は25億円の損失となりました。これはファウンデーションブレーキ分の減益もありますが、主に当期TMD社で発生したアフターマーケット製品の倉庫移転に伴う出荷システムのトラブルによるものです。トラブル自体は解決しましたが、損益には大きな痛手を受けました。また、マイクロデバイス事業も中国の景気減速により、スマホ向け、産業機器向けが減少し、期待した利益を得られませんでした。

短期的な課題― 事業構造改革

ボトムラインでも損失を計上した当期業績が物語るとおり、当社グループではまだまだ収益力の安定性に課題があると言わざるを得ません。短期的なテーマとしては、ブレーキ事業のTMD社と無線・通信事業の日本無線(株)の構造改革があります。

TMD社は2011年の買収以降、巨額ののれん償却を5年間で完了しましたが、当期は40億円に及ぶ営業損失を計上しました。損失の原因が一過性のものとはいえ、その発生を防げなかったことが反省点です。継続的な利益額も買収当初の期待に比べるとまだまだ十分とは言えません。TMD社は世界13カ国に広がる生産・販売拠点を有していますが、不採算拠点へのてこ入れが大きな課題となっています。

もちろん、買収当初から事業構造改革は実施してきましたが、そのスピードが十分ではなかったということです。2018年以降日清紡ブレーキ(株)から経営陣を数名派遣し、課題を改めてリストアップした上で改革を加速しています。現在ドイツでは生産拠点の集約を推進しており、利益率改善への大きな要因となります。さらに世界中の拠点について統廃合を含めて改めて検証し、収益性の向上を図ります。また日清紡ブレーキ(株)が培ってきた日本的なモノづくりのノウハウをTMD社に浸透させ、製品の品質、安全、コストを改善させていきます。

無線・通信事業は、ブレーキ事業と並んで当社グループ最大の事業です。当期の営業損失は、前述のとおり決算期変更により収益の集中する四半期が含まれなかったことが主な原因ですが、実質的な利益レベルはまだまだ十分ではありませんし、2010年に連結子会社となって以来、営業損失を計上することもありました。同事業の主体である日本無線(株)では、長年国内向け、官需向けが事業の中心になっており、この事業構造を海外向け、民需向けへとシフトすべく努力を続けてきました。インドネシアの拠点設立や、災害情報・生活支援情報に関する映像配信サービス、とりわけモビリティ向けの各種製品開発など、事業構造改革は進捗を見せています。しかし、既存市場の縮小スピードが構造改革スピードを上回れば、損益にさらなるインパクトが発生します。日本無線(株)は2017年10月より、日清紡ホールディングスの100%子会社としており、事業構造改革をさらにスピードアップしていきます。

成長への道筋

現在、最も期待の大きい事業は、ブレーキ事業の銅規制対応摩擦材です。日清紡ブレーキ(株)のフィールドであるNAO材の分野では、競合他社に一歩先んじたと考えています。現在、銅レス・銅フリー摩擦材の量産が始まっていますが、各自動車メーカーともに2025年の銅フリー化に向けて、導入がさらに進むことは明白な状況です。

当社グループではこの需要増に備え、日本および米国の生産拠点を増強すべく、2018年より約200億円の増産投資を行っています。もちろんこの流れはその後、タイ、中国、韓国へと続いていきます。

マイクロデバイス事業も足元の高成長ビジネスです。中国経済の不透明さは残るにせよ、車載分野などで順調な成長が見込めるため、増産設備投資を活発化させています。通信機器関連は市況の影響を受けやすいものの、モビリティやIoTといった時代の流れの中、自動車向け、産業機器向けの需要が大きく伸びることは間違いありません。信号系が強い新日本無線(株)と、電源系が強いリコー電子デバイス(株)には、販売面、生産面、開発面のすべてでシナジーを追求できます。当事業の課題は、巨大な顧客企業から一層の信頼を得ることです。そのためには、売上高を1,000億円レベルに引き上げる必要があるため、さらなる提携やM&Aも視野に入れています。

精密機器事業は、親密な顧客関係を前提として増産が続いていますが、南部化成(株)の組織再編によって、さらなる利益増を見込んでいます。同社では歴史的経緯により、国内海外ともに生産販売拠点が多岐に広がっています。これらをより効率的かつ高品質な生産販売体制に再構築していくことを検討しています。

化学品事業では、カルボジライトが好調です。売上高30億円突破は確実です。当社グループとしては、カルボジライトを100億円規模のビジネスにしたいと思っています。当製品をグローバルに成長させるためには、今後事業提携など新たな販促戦略が必要だと考えています。水処理担体は中国で現地の生産パートナーとともに事業拡大の準備中です。

※ Non-Asbestos Organic:スチール繊維を含まない摩擦材

これからの日清紡グループ

現在の当社グループには足元にも近い将来にも、期待できる事業が多くあります。持株会社制に移行して10年、事業ポートフォリオの組み換えに注力しながらも、コンスタントな利益の積み上げができていませんでした。私はこの課題解決を自らのミッションと捉えています。事業には大胆な発想と繊細な執行の双方が必要です。理論的に正しい答えを追究しますが、ビジネスの当事者として優しさがなければ人は動きません。

日清紡グループには、「事業は借り物、人は本物」という言葉があります。本質的には、事業の成長による人材の成長こそが、本当の企業価値であるという考え方です。世界に広がる多様な人材が、一つの経営理念のもとにまとまり、社会に貢献する事業を常に模索し続ける。それが日清紡グループのあるべき姿です。

2019年3月
日清紡ホールディングス株式会社
代表取締役社長
村上雅洋