トップメッセージ

キャッシュ・フロー創出にこだわり、事業活動を通じて社会に貢献していきます。

「環境・エネルギーカンパニー」グループとして事業ポートフォリオ改革を続ける

日清紡グループは「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」を企業理念としていますが、その根底には、「企業は人間社会に貢献することをその存在理由とし、継続的貢献をもって成長の原動力とする」という企業公器の考え方が流れています。私たちは、この企業理念から導かれた事業方針「『環境・エネルギーカンパニー』グループとして超スマート社会を実現する」を具現化するために、成長戦略を策定し、事業ポートフォリオ改革を継続しています。

当社グループの歴史を紐解くと、1907年の日清紡績株式会社創立からは114年が経過していますが、創立100周年をもって日清紡績として一つのピリオドを打ちました。持株会社制に移行した2009年をもって、新しい日清紡グループとしてスタートを切りました。

この大きな方針転換の背景にあったのが、企業としての成長鈍化への危機感でした。世の中のニーズに事業が合致していないなら、会社そのものが変革していかなければならない。原点に立ち返って、どのような事業ポートフォリオを目指すのが社会に継続的に貢献することにつながるのか? この問いに対する答えは明快でした。人類最大かつ最優先で解決を図るべき社会課題は環境問題です。地球環境保護に資する事業を推進していくことが、継続的に社会貢献を果たし、当社の持続的成長につながる——。その考えのもと、「『環境・エネルギーカンパニー』グループとして、超スマート社会を実現する」という事業方針を打ち立て、自社内の既存事業をその方針に適う方向へと加速度的に変革を進めると同時に、成長事業領域での新規事業の育成と積極的なM&Aを通じて、自らをも大きく変革させ、今もなお、事業ポートフォリオ改革に挑み続けています。

持続的な成長のためにM&Aは「友好的」であることにこだわる

当社グループにとってM&Aの目的は、成長事業領域を伸ばすことが第一です。2010年に当時持分法適用会社だった日本無線株式会社(JRC)を連結子会社化したのも、当社グループ内にリソースを持たなかったエレクトロニクスに関する事業を、コア事業として積極的に伸長させていきたいという考えからでした。

一方で、事業ポートフォリオの変革には、足し算だけでなく引き算も伴います。当社グループではM&Aや事業譲渡に際しては、「友好的」であることに徹底的にこだわります。当社グループ内にあっては重点的な投資領域ではなくなった事業も、他社の傘下に入れば中核事業の一翼を担えるケースがあります。中核事業になれば、積極的に資金が投下され、働く従業員もハッピーになります。実際2017年に紙製品事業を譲渡した際も、譲渡後すぐに大型投資が行われ存在感を発揮しています。これは当社が新事業を買収する時も同じです。成長事業領域を伸ばすための買収ですから、従業員もすべて引き受け、重点的にリソースを投下していきます。友好的なM&Aを行うことは、新たに加わった従業員が、日清紡グループに入って良かったと思っていただくうえでも重要です。

従業員が納得して動けるよう、コミュニケーションの努力は怠らない

「事業は人なり」と言いますが、事業は人財の総和以上に力を発揮することは難しく、人がすべてです。また、会社は人が動かないと何も生まれませんし、人は腹落ちしないと動きません。ですから私は、従業員が「なるほど」と心から理解・納得してもらえるまで努力する、そのようなコミュニケーションを常日頃から心がけています。

当社グループでは、歴代ずっと経営トップが社員と直接対話する場を大切にしてきました。昨年はコロナ禍の下、海外拠点を回ることは叶いませんでしたが、通常なら私も年中、国内外の事業拠点を回って、経営方針や各事業への期待を伝え、従業員からの質問や意見を聞くことに時間を費やし、そこで多くのことを教えられていると感じます。

人を大切にするというのは、甘やかすことでも馴れ合いを許すことでもありません。教育・訓練や実力主義を重視することであり、中途入社の社員も増えた中、年次に関係なく、成果を上げた人財を登用しています。ただ、役職は組織を運営するための機能のひとつに過ぎず、上に立つ人間が偉いわけではない、ということは、私も常々、従業員に勘違いしないよう申し上げています。職責は重いが、人が偉いわけではありません。

常時、「見極め」と「見切り」を検討しながら、人財も育成する

当社グループでは常時、事業ポートフォリオの最適化において、事業や製品の見極めと見切りについて検討しています。時流や社会ニーズは変化しますから、会社として長く存在価値を示し続けるためには、一本柱は非常に危ないリスクテイクです。二本柱でも不安定ですから、理想としては、事業の柱が三つあれば重心が前後左右に傾いても、安定した経営が行えると考えます。

当社は戦略的事業領域として、現在「モビリティ」「インフラストラクチャー&セーフティー」「ライフ&ヘルスケア」の三つの分野を掲げていますが、事業の見極めを行う上では、社会ニーズや当社理念との合致や、事業の将来性、さらには事業環境の今後の見通しといった定性的な側面と、必要投資額や期待収益といった定量面とを総合的に勘案します。その過程で、当社グループ内ではこれ以上、事業を推進していくことが難しいと判断すれば、事業譲渡や撤退という形で見切りをつけ、当該分野の経営資源を、成長期待分野へとアロケートします。

M&Aやカーブアウトの案件は常時複数仕掛かっていますが、案件ごとに、経営トップ、CFO、経営戦略部門、リーガル部門、関連事業部門等でチームアップし、敢えて専任部署は設けていません。それは、1年間なり期間を区切った中で多少無理してでも結果を出そうという力が働くのを避けるためです。常時、検討しながらも、1年間何も起きなかった年があっても良い、そう考えています。また、チームで実務を回す従業員の中には初めてM&A交渉の場に就くメンバーも多く、M&A交渉を経験した人財が増えるのもメリットです。私自身も会社に育ててもらいましたから、「教育の場」として、さまざまな場を提供するのも企業の役割だと思います。

2021年は攻めに転じ、成長戦略の実行にアクセルを踏む

2020年度はコロナ禍の影響もあり、売上高は4,570億円と前期比減収、営業利益は12億円、経常利益は34億円と、収益改善に向けた努力によって黒字は確保したものの減益となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は135億円と前期より減損損失が縮小した関係で増益になりましたが、総じて厳しい結果となったことは厳しく受け止めています。

そのような中で2021年は、コロナ禍からのリカバリーを中心に、足もとの収益を固め、攻めに転じ、成長戦略の実行にアクセルを踏み込む年にします。コロナ禍で注目される「非接触」は当社グループの得意分野でもあり、底堅い防災・減災ビジネスを展開する無線・通信事業や不動産事業に加え、活況を呈しているマイクロデバイス事業やブレーキ事業などのモビリティ関連事業やコロナ対応の新ビジネスを伸ばしていきます。そして環境破壊に歯止めをかけ、人の命を守るための防災・減災にソリューションを提供するとともに、モビリティ業界の劇的変化に対応しながら、地球と人々の暮らしを守る事業をスピード重視で展開していきます。

いま「モビリティ」と申し上げましたが、これは敢えて「オートモーティブ」というクルマに限定した表現にしていません。新会社JRCモビリティを中心に、陸・海・空すべてにおける移動体を対象に開発を進めていくという意を込めています。「インフラストラクチャー&セーフティー」に関しては、JRCがインフラ整備を中核事業としていますが、気候変動による自然災害の多発から防災・減災システムへのニーズが増えることも見通せるほか、この分野の深耕は理念にも通じることから引き続き強化していきます。「ライフ&ヘルスケア」は、当社グループ内企業が医療機器を生産していますが、世界的にも技術的に優位性の高いパーツを製造しており、今後の成長が期待できる分野としてフォーカスしています。なかでも当社グループの強みの一つである無線技術と医療とをコラボレーションすることで、寄与できる領域は大きいと思います。コロナ禍の中、すでに遠隔診療は始まりましたが、病院内は依然、多くの医療機器が有線でつながれています。例えば画像の伝送など、クリティカルにはならない分野で無線技術を活かせるフィールドは広く、将来的な成長期待も込めて強化していきます。

こうした経営方針の下、企業が変化し成長していく上では、2つのD、デジタルトランスフォーメーションとダイバーシティ&インクルージョンが鍵になると考えます。

デジタルを活用したサービス事業への拡大で収益基盤をより強固にする

これら3つの戦略的事業領域への注力と同時に、モノづくりで極めた技術や製品を活用したサービス事業への領域拡大を継続・加速させ、グループ全体の収益性の改善も図ります。

当社グループの事業は多様で、事業により収益性は異なるものの、どの事業においても「営業キャッシュフローの創出」をスローガンに掲げ、原価管理の徹底と戦略的な価格設定、事業や製品ポートフォリオの見極めと見切り、継続的なコストダウン、そして在庫の削減を通じて収益性改善に向けた努力をたゆまず行っています。しかし、特にBtoB主体のモノづくりでの収益性向上には限界があり、並行してサービス事業へとシフトを進めることが大事です。このビジネスモデルの変革を後押しする力となるのがデジタル技術です。デジタル技術を活用したサービス事業の身近な実例として、JRCが開発した小型船舶の安全な航海をサポートするスマートフォン用のアプリ「JM-Safety(ジェイマリン・セーフティ)」があります。昨年は新たに船舶の衝突・接近予測機能をアップデートで追加するなど、技術・製品の競争優位性を活用しながらお客様に新しいサービスを提供しています。

こうしたモノづくりの一歩先を考えるサービス事業は、スピード感のあるアウトプットが重要なので、グループ横断の常設組織として日清紡ホールディングス(株)内にデジタルビジネス推進室を設立しました。当室がインキュベーターとなって、投資も含め事業を育成しています。

ダイバーシティ&インクルージョン活動を推進する

ダイバーシティ&インクルージョン活動が目指すのは、過度に周囲に遠慮することなく従業員が自由に発言し、行動できる組織風土の醸成です。人がいきいきと働くには、違いを認め、尊重し、互いの良さを生かし合うことが必要となります。多様化はイノベーションのインフラであり、イノベーションの継続には新しい組み合わせが必要となる、そして、同質化はその敵となります。事業を支えるのは人財なので、事業の多様化を進める上では、様々なバックグランドを持った人財をリスペクトとすることが求められます。

そして、多様な人財で構成される組織を束ねていく上では、やはり「多様性の中での団結」が必要となってきます。企業においてその要となるのは、理念やミッションを共有することとその浸透でしょう。粘り強く取り組んでまいります。

ESG重視やSDGsの追求は、当社グループの経営戦略のど真ん中

会社の目的は、利益を上げることではなく、事業活動を通じて社会に貢献することにあります。しかし、利益なくして事業活動を継続していくことはできません。そして、利益を得るには、正しく儲けることが必要です。

また、健全な地球環境なしには、社会も経済も成り立ちません。当社において環境(E)はまさに事業方針そのものであり、社会(S)についても、企業公器の考え方で、事業活動を通じて世の中に貢献することを理念として持ち続け、ステークホルダーとの対話を継続しています。そして、このような価値創造の基盤となるのが、ガバナンス(G)です。2006年には社外取締役を登用し、ガバナンス改革に着手し、2015年に買収防衛策を廃止し、その後もコーポレートガバナンス・ポリシーの制定、相談役・顧問委嘱制度廃止、取締役会におけるダイバーシティの拡充など、他社に先んじしっかりとした体制構築に努めています。当社にとってESG経営は、まさに経営戦略のど真ん中にあるものと捉えており、当社事業は国連の採択したSDGs(持続可能な開発目標)のターゲットにも適うものです。

5年先、10年先に完全に地球環境が好転するとは考えにくいですが、それまでは素材開発・機器開発を通じて防災・減災で人の命を守り続けていきます。そして、地球を真の意味でグリーンにしていく事業を拡大させていきます。当社グループの誇れる技術と多彩な人財が、環境問題という社会課題の解決に取り組み、人々の安全で安心な暮らしに貢献する姿を、今後も示していきたいと思います。

日清紡ホールディングス株式会社
代表取締役社長
村上雅洋