トップメッセージ

キャッシュ・フロー創出にこだわり、事業活動を通じて社会に貢献していきます。

チャレンジングな外部環境を成長機会と捉える

日清紡グループは、「事業活動を通じて社会に貢献する」ことを使命とし、企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」から導かれた事業方針として、「『環境・エネルギーカンパニー』グループとして、超スマート社会を実現する」を掲げています。私たちはこれまで、この事業方針の具現化に向けた成長戦略を策定し、新規事業の育成やM&Aを通じて事業ポートフォリオの変革に取り組んできました。その結果、当社グループは、異なるルーツを持った事業が一つの束となり、多角化から多様化へとステージを移行しています。

今後も、事業の多様性、人の多様性、価値観の多様性を成長ドライバーとすべく、各事業の枠を超えた技術面、営業面での相乗効果の発揮を追求していきます。

昨今の社会情勢に目を向けると、コロナ禍で受けたさまざまな経済活動の制約に加え、半導体の供給不足や原材料価格の上昇といった事業運営リスクに加え、2022年に入ってからは、緊迫する国際政治情勢や金融緩和の終焉、さらには気候変動の不安定化などにより、ますます不確実性が高まっています。しかしながら私は、こうしたチャレンジングな外部環境は、当社グループが成長実現に向けた戦略的出資・事業再生等を推し進める上で、大きな機会でもあると捉えています。

2021年は、営業キャッシュ・フロー創出に向けた取り組みの成果が表れた

成長実現には、事業採算を改善し、収益力を高め、営業キャッシュ・フローを増加させることが必要です。そこで2020年以来、「営業キャッシュ・フローの創出」をスローガンに掲げ、全事業セグメントにおいて、「原価管理の徹底と戦略的な価格設定」「事業および製品ポートフォリオの見極めと見切り」「在庫削減」といった収益改善策を進めてきました。

こうした取り組みの成果が数字にも表れ、業績回復は軌道に乗ってきました。売上高は前期比11.7%増の5,106億円となり、利益面では、営業利益が同1,645.8%増の217億円、経常利益が同631.5%増の253億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同83.3%増の248億円と、すべての指標で前期実績を大幅に上回り、成長戦略遂行のための収益基盤が固まってきました。

無線・通信では、防災・減災ビジネスの強化と、船舶の自動航行への取り組みといった成長戦略を着実に遂行しました。マイクロデバイスでは、値戻しを推進しつつ、新日本無線とリコー電子デバイスの統合準備を進め、2022年1月に新会社・日清紡マイクロデバイスを設立しました。ブレーキに関しては、日清紡ブレーキではアメリカ拠点の増強を図り、欧州子会社のTMDではドイツ拠点の集約とフランス拠点の閉鎖を進める一方で、ルーマニアやブラジルでの事業強化を進めました。精密機器では、成形品事業はインドネシアの不採算拠点の閉鎖、中国拠点の集約・閉鎖、九州拠点の集約を進める一方で、メディカル事業の伸長に向けて藤枝新拠点の増設を進めています。化学品では燃料電池用カーボンセパレータの旺盛な需要に応えるべく、新棟建設を含む設備増強を決定しました。繊維は、好調なブラジルの高速精紡設備を強化しインドネシアへの横展開を検討する一方で、東京シャツについては店舗戦略の見直しを図り、EC(電子商取引)やオンラインとオフラインを統合したOMOビジネスを軸に成長を図る方針です。

2022年も、無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキを中心に業容拡大を見込む

2022年も、引き続き無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキの主力3事業を中心に経営資源を重点的に配分し、今年のスローガン「事業変革による利益体質の強化」の下、成長に向けた事業変革をさらに推し進めていきます。

無線・通信では、主軸の公共事業向けソリューション事業ならびに特機事業が、引き続き堅調に推移する見込みですが、加えてマリンシステム事業においては、船舶レーダー装置のリーディングカンパニーとして、これまで蓄積してきたリソースを活用し、船舶の自動航行支援などのデータビジネスへと領域を拡げていきます。

マイクロデバイスでは、新会社・日清紡マイクロデバイスの下で、統合した2社の技術面での相乗効果の創出を図り、電源系ICや電池監視ICといった「エネルギーマネジメント」とオペアンプ、コンパレータ等の信号処理系IC といった「シグナルプロセッシング」の2つの領域での発展を目指します。また、これらアナログ半導体デバイスの提供のみならず、デバイスを通じて収集した情報を解析し高付加価値情報に変換する、アナログソリューションプロバイダーとしての成長を図ることで、“つながる社会”の発展に貢献します。2022年2月のディー・クルー・テクノロジーズ社の買収も、こうした成長戦略を遂行するための一施策です。半導体市場は、当面活況が続く見通しで、2022年の業績も引き続き堅調に推移すると見ています。

ブレーキでは、環境規制に対応した銅レス・銅フリー摩擦材の受注が引き続き好調に推移する見込みです。加えて、ここ数年、事業構造改革を進めてきたTMD社ではその成果が明確に見えてきており、同社が強みとするアフターマーケット事業で獲得した高いシェアを活かし業績回復を図ります。

不動産では、大型分譲案件が終了するため減収・減益を想定しているものの、無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキの主力3事業をはじめ、不動産を除くすべての事業セグメントで業容拡大を見込んでいます。

事業ポートフォリオの変革を続け、「戦略的事業領域」に経営資源を集中させる

企業にとって大事なことは、常に変化していくことです。常に変化をし続け、事業の変革を続けていくことは、成長に向けた「攻め」の経営であり、私たちは2022年も引き続き、事業ポートフォリオの変革を進めていきます。

事業ポートフォリオの変革を進める上で、経営資源を集中させる「戦略的事業領域」に定めたのが、モビリティ、インフラストラクチャー&セーフティー、ライフ&ヘルスケアの3つの領域です。当社グループは、100年を超えて知見を蓄積してきた無線・通信技術や、電子デバイス技術、ケミカル技術などの高い技術力を強みとしており、これら技術等を融合させることでグループ横断的に事業の拡大を図ります。

「モビリティ」には、車、船、飛行機、人工衛星などすべての移動体が含まれます。昨今、需要が急拡大している大型ドローン向けに開発した制御・通信システムも、今後順次搭載されていきます。モビリティ領域で使われる製品は、最新鋭レーダーも含め、量産化が求められるため、繊維やブレーキが培った量産化技術の活用も検討していきます。

「インフラストラクチャー&セーフティー」では、社会インフラを維持しながら、防災・減災を通じて人々の命を守る取り組みを引き続き進めます。例えば、気象情報を捕捉する気象レーダー、ダムや河川を監視する水・河川情報システム、既設のディスプレイに接続することで災害情報等を自動発信するAlertmarker +などは、洪水などの自然災害から人々の命を守るソリューションとして貢献しています。日本無線は、航空・気象システムや水・河川情報システムでは高いシェアを有していますが、局所的なゲリラ豪雨などの異常気象をより早期に探知できる気象レーダーの高性能化も進んでいます。

「ライフ&ヘルスケア」では、2020年12月に、当社グループの上田日本無線が製造するハンディタイプの超音波診断装置が医療機器メーカー大手のテルモ(株)から発売されました。今後も当社グループの強みである無線・通信技術と医療機器とのコラボレーションを進めていきます。この領域では、開発スピードや経営周期などの時間軸は他の2領域に比べ長くなりますが、遠隔診療・治療や見守り介護に資する製品・サービスの提供を目指していきます。

そして事業ポートフォリオの変革など「攻め」の経営を進め、ROICやROEの持続的向上を目指します。

一人ひとりの「挑戦と変革」を後押しする風土を醸成する

企業が変化し続けるには、企業を支える従業員も、前例を踏襲するのではなく、時代の変化を先取りしたものの見方や考え方を心がけて、自らの行動変化へと結びつけていかなければなりません。「事業は人なり」と言いますが、事業の盛衰はそこで働く人によって決まりますので、従業員に少しでも納得・理解してもらえるよう、私の方から積極的にコミュニケーションを図ることを心がけています。2021年はコロナ禍で海外渡航が制約された分、国内の事業所を回り、各回10~15名の従業員と約1時間の対話セッションを重ねてきました。海外拠点とのオンライン対話も含めると1,300人を超える方々と直接コミュニケーションを図ることができました。対話の中では、私から日清紡グループの目指す方向性や「挑戦と変革」の重要性についての考え方を共有した上で、グループや一人ひとりにとって、より良い未来を築くためにどのような変化を起こし、そのためにどのような挑戦をしていけばよいか、双方向で議論をしています。

挑戦をすれば、当然、失敗することも多々あります。私自身も、新規事業の立ち上げに失敗し、事業の撤退も経験しています。私は、失敗で得られた経験をチームとして活かすことに成功のカギがあると強く思っていますので、対話の中では、「一度や二度失敗したからといってそれでキャリアが終わる会社ではない」ことを実体験とともに伝えています。また人事制度上も、評価対象を直近2期の実績にとどめることで、失敗を恐れない風土の浸透を図っています。失敗を許さない企業風土は不正を生み、失敗を許し活かす企業風土はイノベーションを生みだすと考えています。

DXとD&Iで、イノベーションを生み出す

失敗を許し活かす企業風土の中で、実際に変化や成長を進めていく上で、鍵となるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)とD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)です。

当社グループでは、DXを新規事業の拡大につなげるべく、デジタルへの投資も継続しています。DXの目的は、デジタル技術やデータを活用して仕事のやり方といったプロセスを変革するだけでなく、既存のビジネスを改変し、新たなビジネスモデルを創出することです。デジタルをイノベーションの加速装置として、より大胆な発想で駆使することで、デバイスで収集されたデータを活用して顧客に新しい価値を創出するといった、製造業からサービス業への転換もイメージした事業成長を目指しています。

また、「多様性はイノベーションの源、同質化はイノベーションの敵」と言われるように、D&Iの取り組みも重要です。過度に周囲に遠慮することなく、従業員一人ひとりが自由に発言し、行動できる組織風土の醸成が必要ですが、「自分とは違うマイノリティを受け入れてあげる」という考え方は間違いです。人それぞれに個性があり、一人ひとりの違いにこそ価値があるのです。「自分自身も多様な人間の一人」と認識することがD&Iの取り組みのスタートであり、こうした感性の土台を固めた上で、さまざまなバックグラウンドを持つ人をリスペクトすることが求められます。

当社グループには多様な事業・人財が集まっていますが、組織を束ね、グループ経営ならびにグローバル経営を推進する上では、「多様性の中での団結」が必要です。企業において、その要となるのは、理念の共有と浸透です。私たちは、「『環境・エネルギーカンパニー』グループとして、超スマート社会の実現を目指す」という事業方針の下、地球環境保護や代替エネルギーに寄与する製品・システムの提供等に積極的に取り組み、「モノ」づくりで培った強みをベースに、「コト」「サービス」の視点を高め、DXによる新たな社会課題へのソリューションを提供する業態へと変化し、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。

持続可能な地球環境なしには、経済も成り立たない

この「環境・エネルギーカンパニー」グループという事業方針を打ち立てたのは、2006年にさかのぼります。その背景には、「地球温暖化」というキーワードが叫ばれていた地球環境に対する危機感がありました。15年経ち、地球環境は良くなるどころか、悪化しており、「気候変動」というキーワードに代わりながらも、依然、グローバルで取り組むべき最優先課題となっています。

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、持続可能な社会という大前提がなければ経済活動も意味を持たないことを人類が痛感する出来事でした。突発的なパンデミックの陰で、地球環境の危機は今もじわじわと進行しています。異常気象は頻発しているけれども、毎日の天気が異常なわけではないという中で、目先の経済を最優先し、その上で余裕があればSDGs/ESGにも注力しよう、という考え方は間違いだと思います。大体のモノはお金で買えるという世界は、地球環境が持続可能であり、社会が安定し世界が平和であるという前提の上に成り立っていることを忘れてはいけません。地球環境の改善に資する事業を推進することで、結果的に会社が評価されて利益が生まれてくると考えています。

当社グループは創業以来、「事業活動を通じて社会に貢献する」という企業公器の考えを大切にしてきました。つまりSDGsやESGといった言葉が生まれるもっと前から、日清紡グループの経営戦略の中心に、SDGs追求やESG重視の考えがあったということです。当社グループには、CO2削減などの地球環境保護に資する事業や製品・サービスが数多くあり、それらを成長させることで、社会貢献を拡大していきます。

そのためには、気候変動による各事業の「リスク」と「機会」の抽出が必要です。昨年からシナリオ分析に着手し、まず、貢献の「機会」が期待される3事業セグメント(無線・通信のソリューション事業、ブレーキ、化学品)を対象としました。 この分析結果を裏付けとして、6月には2030年に達成すべき環境目標を定性・定量の両面で策定・公表しました。今年は残る事業に分析対象を広げ、これにより、連結売上高の約9割以上をカバーできることから、2022年6月に2050年のカーボンニュートラルを宣言し、TCFD提言への賛同を表明しました。

ステークホルダー価値のさらなる向上に向けて

会社は、株主の皆様からお預かりしたものであり、私たちには、その会社を大切に扱いより良くしていくための責任があります。そして、株主の皆様だけでなく、お客様、従業員、お取引先、地域社会、国・地方公共団体など、すべてのステークホルダーにとっての価値を向上させていかねばならないと考えます。

多様な事業が融合した当社グループの中で、ステークホルダー価値の向上につながる経営方針・戦略を策定し、その上で経営資源を配分することは、持株会社である日清紡ホールディングスに課された最大の使命です。加えて、長期視点で、グループ内の個社では抱え切れない開発テーマをインキュベートしていくことや、冒頭に申し上げたグループシナジーの創出を加速していくことも重要な機能です。各社単体では手に負えない部分も、グループ内に協力を求めることで、課題解決へのスピードが速まり、コストパフォーマンスも高く、知財の流出も避けられるなど、多々メリットが生まれます。例えばグループ内にケミカル事業があることで、電気・電子系で性能向上を図る際に素材へのアプローチができ、そこからより高性能な新しいデバイスが誕生するといったグループシナジーも現実に起きています。

こうしたシナジーも含め、これからもステークホルダー価値の向上を図るために、研究開発、設備増強、M&Aなどの成長投資を加速させ、ROICやROEの向上へ結びつけていきます。そして、「環境・エネルギーカンパニー」グループとして超スマート社会の実現を目指すことをぶれない軸として、事業活動を通じて社会へ貢献し、ステークホルダーの皆様からより一層評価され、信頼いただける企業を目指していきます。

日清紡ホールディングス株式会社
代表取締役社長
村上雅洋