日清紡ホールディングス株式会社 取締役常務執行役員
日本無線株式会社 代表取締役社長執行役員
株式会社国際電気 取締役会長執行役員
佐久間 嘉一郎
2026年3月に日本無線の社長並びに国際電気の会長に就任いたしました佐久間嘉一郎です。
私は1979年に日立製作所に入社して以来、システムエンジニアとしてさまざまな情報システム開発に携わりましたが、その一つに気象庁の天気予報システムがあり、気象レーダーの観測データも取り扱った経験があります。その気象レーダーが日本無線製であったことを改めて知り、運命的な思いを抱いています。また、日立製作所の役員、日立ソリューションズ・日立国際電気(現・国際電気)の社長として、赤字事業の立て直しや組織再編を含む構造改革を主導した後、国際電気の日清紡グループ加入に際しては、国際電気側の立場でディールに参画しました。このような形で日清紡や日本無線とご縁ができるとは想像しておりませんでしたが、これも天命と受け止め、これまで培ってきた経験を最大限に活かし、持続的成長と収益性向上を図ってまいります。今後とも日清紡グループの無線・通信事業の先頭に立ち、粉骨砕身、取り組む所存ですので、よろしくお願い申し上げます。
事業環境に目を向けると、国の「強い経済成長」や「安全保障」の実現に向けた成長戦略のもと、官民による投資は拡大基調にあり、国民の安心・安全の確保や社会課題の解決に向けた取り組みが、ますます加速される状況です。日清紡グループの無線・通信事業としては、目指す姿を「無線通信トータルエンジニアリングカンパニー」と定めて、無線通信、センシング、AI技術などを駆使したDXソリューションを通じ、防災・防衛・海運をはじめとするさまざまな現場の最前線で活躍するフロントラインワーカーの皆さまを支援してまいります。
日本無線も国際電気(以下、我々と呼びます)も無線・通信を祖業として長年にわたり、自営無線網を構築し、山間部等の人の居住しないエリア、工場の生産現場、建設現場、鉱山の掘削現場といった、通信キャリアがサービスを提供していない電波の通じ難い環境においても無線通信環境を実現してきました。どこでも必要とされる場所に基地局を設置しネットワークシステムを構築し、自営無線通信環境を提供できることを強みとし、常に新技術の開発に努め、時代の要請に応える製品・システムを提供するとともに、お客さまの多様なニーズに対応し、課題解決を図ることを目指して事業を推進しています。また、対象となる市場は防災や防衛、道路や鉄道・船舶運用等、社会インフラの分野が中心であり、システムのライフサイクルが10~20年と長期にわたることが多いため、システム構築・稼働後も定期的なメンテナンス等により安定した稼働を実現し、長期を通じ、お客さまに安心して使っていただけることが重要です。
こうした一連のサービスをワンストップで提供してきましたが、現在はITシステムを活用したDXソリューションのニーズが高まっています。我々は、無線通信技術の強みを活用し、現場のさまざまな課題解決を図るDX ソリューションで応える「無線通信トータルエンジニアリングカンパニー」への進化を遂げることを目指します。
電波・無線の世界は、Wi-Fiルーターのような身近なものから、通信キャリアの大規模な通信設備、テレビ放送設備、さらには船舶レーダーに至るまで多岐にわたります。システム実現に当たっては、使用する周波数帯や送信出力、輻射角度に加え、対象エリア全体をカバーする基地局配置など総合的な設計が必要であり、障害物の回避や通信途絶防止策など豊富な経験と知見が求められます。さらに運用時には電波法等の遵守が必須で、複雑な法的手続きを経て許認可を取得する必要があります。このように電波・無線の利用は専門性が高く取り扱いも難しい領域ですが、日本無線は100年を超える、国際電気も80年近い長きにわたり、技術開発に努め、現場での活用経験を重ね、豊富なノウハウを蓄積してきました。こうして培われた開発力と実績こそが我々の最大の強みです。この強みにAIをはじめとする最先端技術を積極的に取り入れながら、機能面とコスト競争力の一層の向上を図り、グローバル市場においても競合優位性の維持・強化を図ってまいります。
日清紡グループは、2030年度に無線・通信事業のオーガニックな成長での目標値として売上3,000億円、営業利益300億円、営業利益率10%を掲げ、その達成に向けて不断の構造改革と成長への挑戦を両輪として取り組んでいます。
日清紡グループの無線・通信事業セグメントは、官公需、民需、マリン、特機の4つの分野で構成されます。それぞれの分野で、地球温暖化に起因する災害の激甚化、高まる一方の地政学的リスク、少子高齢化の進行、日本の造船ビジネス再生に向けたマリン需要の増大などを背景に、我々の手がける安心・安全への取り組みの重要性は今後、さらに高まっていくと見込まれ、大きな追い風と認識しています。
一方で、2025年度の業績はグループトータルで売上高2,518億円、営業利益177億円まで回復したものの、営業利益率は約7%であり、収益基盤としては十分とは言えません。喫緊の課題は、日本無線グループの構造改革であり、既に昨年度はフェーズ1として人員適正化を断行するとともに、事業機能を日本無線および上田日本無線に集約、生産機能は長野日本無線に統合し、新“One JRC”として新たな日本無線グループに生まれ変わりました。本年度もフェーズ2として業務プロセスの見直しを中心に構造改革を継続し、真のOne JRCとしての経営基盤の盤石化を目指します。
目標達成に向けて、もう一つの柱である成長への挑戦については、官公需・特機・マリンといった現時点での岩盤事業をより強くすると同時に、民需を成長事業と位置付けてより伸ばすことに挑戦してまいります。
官公需事業は、大きな成長が見込みにくい一方で、解決すべき課題の質が変化しており、これに的確に対応して今後も岩盤事業として維持・成長させてまいります。「無線通信×DX」のコンセプトで、河川監視やダム管理では、水位センサーやカメラで捉えた状況を解析し、ゲート開閉制御による水位コントロールや危険水位到達予測に基づく迅速な避難命令につなげ、高度な河川管理の実現を目指します。防災では、日本無線は県レベルの広域防災、国際電気は市町村単位の防災システムを得意としており、両社の強みを連携させシナジー発揮を図ります。
特機事業は、地政学リスクの高まりに伴う防衛予算の拡大や制度見直しなど、強い追い風の事業環境にあります。防衛力の抜本的強化に向けた7つの重視分野に我々の技術を紐づけ、不足分は研究開発に注力し、従来領域に加えて宇宙・サイバー・電磁波といった新領域にも挑戦し、安心・安全な社会への一層の貢献を目指します。マリン事業は、日本の造船ビジネス再生方針を背景とする需要増大を捉え、更なる受注獲得を図るとともに、欧州を中心に世界各地に拠点を有する子会社Alphatron社との連携でグローバル展開を加速します。船舶の自動運行などスマートシップ化の動向に対応したDXソリューションを早期に開発・市場投入し、海洋関連のさまざまな分野へ事業領域を拡大してまいります。成長事業として取り組む民需事業は、製造、建設機械、運輸/鉄道等の社会・産業インフラの現場をターゲットに、スマートファクトリーに代表されるスマートXXでの各種DXソリューションを開発し、ソリューションベースで新市場を開拓、さらなる成長に挑戦します。無線通信網を現場に毛細血管のように張り巡らせ、センシングで把握したデータとフィジカルAIを活用して業務を最適化し、フロントラインワーカーの皆さまを支援します。さらに、自社で設計から製造まで行ってきた経験を活かし、ODMによる設計・製造受託に加え、ロボット活用も含む製造ライン構築までカバーするEDMS(Electronics Design and Manufacturing Service)の事業化を目指し、モノづくり全体を支える高付加価値サービスとして新たな収益の柱に育成していきます。
人財に関しては、従来のハードウェア中心のエンジニア体制から、ソフトウェア技術やシステムエンジニアリングも担える人財の拡充に力を入れています。先端分野で発展スピードも速いため、自力の育成だけでは補えない部分は産学連携で強化していきます。一方、構造改革・事業成長の推進には「一歩踏み出す」マインドが不可欠です。日本無線・国際電気はいずれも長い歴史を持つがゆえに、自ら変化に踏み出すバイタリティーが十分とは言えず、大きな課題と認識しています。社員一人ひとりには常に意識して、勇気をもって踏み出すよう働きかけています。私は、「熱(ほとばしる情熱)・理(徹底した理詰め)・情(社員たちの心の充足)」にあふれる企業を目指してきました。この三文字の精神を忘れず、過去に学び、未来を描き、その実現に向けて今なすべきことを考え抜き、強い意志を持って社員とともに一歩一歩踏み出していきます。その積み重ねが、環境変化に強く持続的に成長できる企業体質をつくり上げ、あらゆるステークホルダーの皆さまから選ばれ続ける企業へとつながるものと確信しています。
お客さま、ビジネスパートナー各位をはじめ、地域社会を含むすべてのステークホルダーの皆さまには、これまで賜りました多大なるご厚情に心より御礼申し上げます。皆さまとも「三方よし!」の精神のもと、Win-Winの信頼関係構築を目指し、社会・お客さま・日清紡グループのいずれにとっても価値ある存在となることで、持続的な成長と安定した成果の創出に努めてまいります。
今後とも日清紡グループの無線通信事業にご期待いただくとともに、変わらぬご支援とご指導を賜りますよう、お願い申し上げます。