社長・社外取締役対談「新時代へと向かう日清紡グループ」

藤野しのぶ氏が2015年に日清紡グループ初の女性取締役として選任されてから、3年が経ちました。日清紡グループがこれまで遂げてきた変化と、新しい社会に求められる今後の姿について、社長の河田正也と意見を交換していただきました。

社外取締役
藤野 しのぶ

代表取締役社長
河田 正也

過去3年間の日清紡グループ

藤野 : 日清紡グループは事業領域が非常に広く、取締役会の議案も内容が濃いので、就任当初は事前準備にも時間をかけ、企業理解・事業理解についても、事業会社やその工場への訪問見学などに相当の労力をかけて取り組みました。この3年で日清紡グループへの理解は高まりましたが、M&A案件も頻繁で常にグループは変化を遂げておりキャッチアップが欠かせません。
3年前の取締役会と比較すると、当時は時には夕刻までかかっても活発な議論が尽きないという状況でしたが、現在は開始時間を一時間早めに設定し、終了時間を意識して、より効率のよい議論を目指す方向に変化しつつあるという印象です。

河田 : もともと幹部層は男性中心の会社であった当社グループに、初の女性取締役として藤野さんを迎えたことは、ダイバーシティの実現、また、より立体的なガバナンスという観点からも、非常に意義深いことでした。現在の女性取締役は藤野さん1名であり、女性取締役の増員も検討していきますが、0から1への変化は極めて大きなインパクトがありました。働き方改革や、「女性の活躍」という議論は男性のみの発想ではだめで、当事者たる女性自身の立場から出る意見が重要です。私自身にとっても、例えば「若手社員によるワークショップに、女性社員が何名参加しているのか」といった視点など、藤野さんから得たところが大きいと感じています。今後もさらに女性の活躍機会を質・量ともに高めていくつもりです。藤野取締役には取締役会だけでなく、ほかの場面でも積極的に関わっていただいていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

日清紡グループのダイバーシティ

藤野 : 女性の活躍という点では、経営方針会議への女性参加の推進など、日清紡グループは着実に前進していると感じます。今後さらに、管理職層やその上のポジションへの女性社員の登用を進めるべき段階ではないでしょうか。すでに各事業の現場ではリーダー的役割を果たしている女性も多いと聞きます。彼女たちが今以上に働きやすい就労制度や組織風土をつくることが、女性のさらなる活躍を促すでしょう。時間はかかると思いますが、中長期の視点をもって粘り強く進めていくことが必要です。
また、日清紡グループは主にBtoBの製造業を手掛けていますが、どんな製品であれ、その行き着く先には消費者がいます。であれば、社員が社員であると同時に生活者であり、消費者であるという観点が重要です。社会の多様なニーズに応えるには、企業の意思決定のプロセスにも多様な意見を取り込む土壌が不可欠です。ダイバーシティ推進のためには、それが社会の要請だからということではなく、それこそが企業の価値創造のために必要なファクターであることを、前面に置く必要があります。

河田 : 社会には男性女性が半分ずついるにも関わらず、その縮図であるはずの日本企業の、特に管理職層で男性が圧倒的多数という状況は変えなければなりません。当社グループの開発する製品群の中で、例えば繊維分野には女性消費者をターゲットにした製品も存在します。そうした製品の開発には、女性目線のアイディアが何よりも重要でしょう。
対外的にも女性管理職比率の目標数値などを公表していますが、人事担当者だけでなく、各部署のリーダーが多様な人財活用の重要性をしっかり認識することです。さまざまな会議にももっと女性社員に参加してもらい、プレゼンテーションを実施してもらうなど、女性社員のプレゼンス向上を図っていきたいところです。女性管理職層の前提となる母集団を大きくするには時間を必要とします。また科学技術分野では、人材市場における女性の数自体が少ないという問題もあります。それをカバーする意味でも、並行して女性の中途採用を積極的に進めています。
当社グループでは女性の働きやすさ向上を目指して、各中核会社の女性管理職が懇談の場を持つ機会を増やしたり、就労制度も一層柔軟にしたりしていくつもりです。
さらに、現場のダイバーシティを拡大させていく上で、性別や年齢などに関係なく互いに忌憚のない意見を主張しあえる組織風土にしていくことも大切です。もちろん、パワハラ・セクハラは絶対に許さないという方針を共有した上で、より闊達なコミュニケーションを目指します。

目指す姿を実現する事業展開と情報発信力

藤野 : 私が就任した当時の日清紡グループは、縦の組織力が強い会社という印象でした。それが特にここ1年ほどで、横のつながり、すなわちグループ会社同士のコミュニケーションや、シナジーを重視する姿勢が前面に表れるようになったと感じます。

河田 :近年の積極的なM&Aによってグループ内に新しい組織や人財が増えたことで、横のコミュニケーションの重要性が一層高まりました。特にこの数年は、毎年のようにグループの構成員が変化しています。M&Aの目的は、単に人財や利益を足し算的に増やすということではなく、互いにシナジーを発揮することで、個別企業とグループ全体の両方を発展させていくことにあります。つながりが薄いと思い込んでいた2社が意外な点で連携できることも多く、そうした潜在的なチャンスを発掘するためには、イノベーティブな発想とコミュニケーションこそが重要と思います。

藤野 :取締役会の議論を通じて、近年ではM&Aが不可欠な経営ファクターであると感じると同時に、その難しさも実感しています。M&Aではスピードやタイミングも重要ですから、事前にリスクなどを検証するとはいえ、実際には買収実行前に対象企業の実態を完全に把握することはできません。もちろんデューデリジェンスは徹底的に行いますが、M&Aが完了した後でいかにシナジーを発揮するかという、いわゆるPMIのプロセスが非常に重要だと思います。日清紡グループも、これまでの多くの事例を活かしながら、さらに経験を重ねていくことが必要です。

河田 :PMIの重要性については、私も同感です。当社グループのこれまでのM&Aの成果をしっかりと見直して学習効果を発揮していかなければなりません。走りながら学ぶという姿勢で、今後も経験を積み重ねていきます。

藤野 :効果的なM&Aのためには、グループが向かっている方向を明確にすることも重要だと思います。この点で日清紡グループは「環境・エネルギーカンパニー」グループを掲げていますが、それに合致したM&A戦略を推進するだけでなく、今後は社内外に対してしっかりとした説明責任を果たすため、目指す姿やストーリーをこれまで以上に鮮明にする必要があると思います。

河田 :近年のESG意識の高まりもあって、すでにグローバルなコンセンサスとして、環境軸を無視したビジネスを行えば、企業の存立すら許されないという時代に向かっています。
当社グループの重要な事業領域であるオートモーティブにおいて、現在CASEという概念がキーワードになっていますが、これにはカーシェアリングや電動化などを通じた環境・エネルギー意識の高まりがあります。当社グループも銅フリー摩擦材や燃料電池車向けの車載機器などの開発を通じて、環境やエネルギー配慮型の製品提供を加速します。
こうした軸に沿わない、目先の利益を優先した意思決定は避けるべきですし、単に量を増やすだけのM&Aは意味がありません。
日本企業はESGの面で後れていると言われますが、それには企業の対外的な説明力・発信力の不足という側面もあると思います。「一を聞いて十を知る」ような、いわゆるハイコンテクストな日本的風土と違い、グローバルなステージでは、自社を正当にアピールすることが説明責任の一部であるという認識が必要です。そうした中で2017年、当社グループの統合報告書がGPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」に選定されたことは、投資家へのアピールという面では一定の評価を得たという自信になりました。今後もIR・PR両面で発信力を高めていきます。

※ Connected(接続性)、Autonomous(自動化)、Shared(共有)、Electric(電動化)

新時代に向けた人財登用

藤野 :近年、特にネット関連などの新産業では、30代の経営者が珍しくありません。その点では、現在の日清紡グループを外から眺めると、組織階層がはっきりと分かれている、従来型の日本メーカーのイメージがまだ強いといえるかもしれません。新しい時代の日清紡グループの活躍のためには、ダイバーシティの推進を含めた、これまで以上に柔軟な人財戦略が必要となるでしょう。新しい社会のニーズやシーズに対しては、若手独自の感性が活きることが期待できます。また、人財は経験年数だけでなく、それぞれの個性や、独自の価値を評価することも重要です。潜在的な能力を発揮させるため、リーダー候補となりうる人財をあえて早い段階から重要なポジションに登用し、人財の成長を加速させる方法も考えられます。

河田 :人財を大きく成長させる「知的修羅場」をどう経験させるかがポイントです。それは業務外の研修だけでは得られない実践的な体感です。海外に出向した若手社員は、ローカルの社員をマネジメントするポジションを担うことが多いため、大きく成長して帰国します。その経験を通じて培った現地との関係や、グローバルな視点は、大きな強みとなります。そうした人財を、国内でどう活かすかが今後の課題です。また、前述の女性人財の育成という観点からも、安全上の問題を考慮しつつ、有為な女性社員には積極的に海外勤務も経験してもらっています。グループの中核事業においてすぐに組織の壁を壊すことはできませんが、新しい事業分野への進出にあたって新会社をつくり、適応力のある若手人財を責任者として登用することも、今後は検討したいと考えています。

今日はとても有意義な時間でした。通常の取締役会では、効率化を図ったとはいえ決議事項が多いので、こうした広い視点からの議論を社外取締役の方と深掘りする機会を増やしていきたいと思います。

藤野 :全く同感です。我々社外取締役も、さまざまな提言をもっと増やしていきたいですね。