社外取締役インタビュー

取締役会のあるべき姿とは

社外取締役 富国生命保険相互会社 取締役会長

秋山 智史

日本企業のコーポレート・ガバナンスは、年々進化を遂げており、日清紡グループのガバナンス制度も、次々と新たな施策が実施されています。しかし、日本政府による企業のガバナンス改革の要請はさらに継続し、当社グループのグローバルな成長に伴うさらなる進化の必要性も増しています。日清紡ホールディングスの社外取締役を11年にわたって務めてきた、秋山智史氏にお話を伺いました。

近年の日清紡グループは、社内取締役を減員し社外取締役を増員したり、任意機関としての指名委員会、報酬委員会を設置したりするなど、コーポレート・ガバナンス改革を加速させています。直近では、(社長・会長退任後の)相談役・顧問委嘱制度の廃止を発表しました。これら一連の施策について、ご意見をお聞かせください。
日清紡グループは社風としてとにかく真面目な会社であるので、「すべきことをする」という意味で、改革をどんどん打ち出している。現在の日本企業にとってすべて必要なことであるし、その実行力を高く評価している。
一方で、こうした施策は始まったばかりで、現時点ではまだ制度をつくったに過ぎない。制度の実効性のある運用が問われるのはこれからである。制度に満足せず、課題を抽出し、運用を改善していくべきと考える。
例えば、社内/社外の人数バランスに関しては、社外取締役が増えるほど、取締役会が企業活動の現場から乖離するという問題が出てくる。社外取締役の判断能力は、より客観性が高いかも知れないが、判断の前提となる正しい情報の把握をどのように担保するのか。このことは当社グループに限らず、日本企業全体で社外取締役のプレゼンスが高まるほど、重要な課題となろう。
委員会制度では、経営側が提出する案に対して社外取締役の委員が承認するという形になるが、そこで単なるYES/NOではない、案を解釈する基準が提供されると良い。外部のコンサルタントなどを起用しても良いが、「この案はこういう風に解釈すべき」という視点や考え方についてももっと議論されるべきだ。
相談役・顧問の廃止に関しては、もちろん制度自体は旧態のものなので、廃止すべきであるが、一方で大企業の最高経営者を経験した得難い人財を、そのまま失って良いのかという問題も残る。当人の知見やプレゼンスを考えたとき、引き続き経営への助言や自社の対外活動に協力できる仕組みを、別途つくるべきではないかとも思う。欧米社会なら個人として社会的な敬意を集めることも一般的だと思うが、日本ではまだ、企業に属さない形で個人の能力を発揮するのは難しいと考える。
しっかりとした制度の上で、上記のような課題の解決を年々積み上げていくことにより、より強靭なコーポレート・ガバナンス体制ができると考える。
取締役の経営上の責務について、どのようなご意見をお待ちですか?
フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を最優先事項と考えて取り組んでいる。受託者責任とは、株主から預かった財産を棄損させないことだ。
経営者は企業価値向上に向けて、リスクテイクが必要だ。過去と同じ事業の繰り返しは安全な取り組みに見えるが、やがて競争力を失って市場から排除される。常に「自分たちの差別化要因は何か」ということを考え抜き、それを前提としたリスクテイクを行うことが経営の神髄である。その点では、私は日清紡グループの経営陣を大変評価している。
一方で、「企業の成長」という言葉には注意が必要だと思っている。企業を大きく成長させようとすれば、リスクテも大きくなる。成長を最優先させて、株主の財産を棄損させてはならない。ボラティリティの高い市場への参入は避けるべきだし、際限のない企業成長を経営の義務と考え、際限のないリスクテイクを行うのも正しくない。
取締役は、こうした視点で経営者にリスクテイクを促し、またリスクテイクを監督せねばならない。「これをしたら何が起こるか、しなかったら何が起こるか」というシナリオを想定し、「最悪の事態では、どのように株主の財産を守るのか」という立場で、経営の意思決定を行うことが、取締役の責務だと思っている。
経営陣への助言も取締役の重要な責務と考える。日清紡ホールディングス(株)の社外取締役のメンバーはそれぞれ専門性の高い分野で活躍している人々である。彼らの助言を経営陣が積極的に受け入れ、次の企業戦略に展開していくことが理想的な状況といえる。当社の取締役会には、自由闊達な議論ができる環境があり、実際に社外取締役から意見が活発に提示されている。事業推進面においても、組織管理面においても、こうした新しいアイディアに対しては何でもトライすべきだ。まずはトライしてみて、その後、改善点を修正していけば良い。
2017年4月に紙製品事業を譲渡、10月には日本無線(株)を完全子会社とします。
社外取締役として、どのようにお考えですか?

事業の選択と集中という意味で、いずれも過去数年の大きな経営テーマだった。どちらも最適解を探るべく、議論を重ねてきた問題である。
紙製品事業については、最高のタイミングで譲渡できたと考えている。ここまで同事業の価値を向上させる努力を継続しつつ、ステークホルダー全体の利害を視野に入れて、今後の方針を検討してきた努力が結実したものと思う。当社グループの経営陣が、紙製品事業と当社グループ、譲渡先の3者すべてに対して、大きなメリットある取引に仕上げたことを高く評価したい。
日本無線(株)は、事業構造改革による収益の向上、車載向け通信機器などビジネス上の融合によるシナジー効果の発揮を図るべく、経営努力をしてきた。一方で、同じ日清紡グループとしての、文化的な融合も次のテーマとして残っていた。今回100%子会社になったのは、文化的な融合を加速させる上で、「機が熟した」と考える。
TMD社や南部化成(株)も同様であるが、日清紡グループの経営陣は、M&Aに関する手順やタイミングの取り方が優れている。M&Aは今後も増えてくるため、この能力は大きな強みである。

日清紡グループは、2025年度に売上高1兆円、ROE12%超という長期業績目標を立てています。 この目標について、どのようなご意見をお持ちですか?
「環境・エネルギーカンパニー」グループという経営ビョンとあわせて、正しい数値目標と考える。しかし、数値目標の達成ばかりを最優先してしまい、ビジョンや企業理念から逸脱した事業展開をしてはならない。大事なことは、成長の持続性である。
また、より詳細な経営計画の公表を行わないと、実現性への説得力が弱いと感じており、それが現在の経営課題の一つとして議論されている。もちろん経営計画は社外取締役が十分に参画して策定されるものとなる。
企業経営を取り巻く現在のグローバルな環境は、かつてと違い経済的要因以外の不確実性が非常に大きい。しかし、予測できないことに経営陣が振り回されてはならない。
私は、こうした不透明な時代にあって、日清紡グループの立ち位置は決して間違っていないと思っている。当社グループは、将来の展望をしっかり見据えて、日々の業務を着実に推進することができる企業だ。
取締役会の実効性について、どのようなご意見をお持ちですか?
取締役会の実効性とは、取締役が受託者責任について強い意識を持ち、取締役会において活発な議論がなされ、それが企業経営にしっかりと反映された結果、企業が持続的な価値の向上を実現し、株主を含めステークホルダーとのWin-Winの関係が構築されることと考えている。
私は生命保険会社の経営に長年携わっているが、常々、投資家と企業の理想的な関係は「共生」にあると考えている。ややもすると投資家は株主の権利ばかりを主張し、企業もそれに対する過敏な防衛行動に走りがちであるが、お互いが繁栄する共通認識を、コミュニケーションによって構築することが重要である。
このことはすべてのステークホルダーに対して、同様に当てはまると考える。そのためには、経営の透明性を保ち、あらゆるステークホルダーとのコミュニケーションを密にすることが重要だ。社外取締役は企業とステークホルダーの利害調整役であり、その機能が十分に発揮されれば、取締役会の実効性がより高まるだろう。